思想家として著名な中村天風の来歴は波乱万丈そのものです。1876年(明治9年)の生まれ、日露戦争の軍事探偵として満州に就き活躍しますが、参謀本部が放った113名の軍事探偵のうち帰還したのは天風を含めわずか9名だったという、厳しい任務でした。戦後、軍の通訳を務めていましたが不治の病とされる急進性結核に罹り、心身の救いを求めて世界を旅するなかでインドのヨーガ聖者に巡り合い、修行を経て真理を悟り、病をも克服し結核は治癒します。帰国後は銀行の頭取など実業界で成功を収めますが、真理の流布を一念発起し「天風会」を創設、心身統一法の普及に努めました。政財界の重鎮をはじめとして各界の頂点を極めた幾多の人が心服しています。かつては東郷平八郎や松下幸之助、現代においてもドジャースの大谷翔平選手がその教えを人生の糧としています。
中村天風の教え
心を安定させる
感情や感覚の刺激を心が受けても、神経系統に影響を与えない方法として「クンバハカ法」があります。これは、①肛門を締める。②肚に力を籠める。③肩を落とす。というものです。①は肛門を腸の方に引き上げるイメージ。②は臍下丹田(臍下の一点)に心を鎮めるイメージ。③は全身の力を抜くイメージ。で行うといいかもしれません。
呼吸法
人間の生命を維持する活力は、水、土、日光、食物、空気の5種に包含されています。このうち85%は空気により賄われていますので、真の健康を獲得するためには正しい呼吸法を行うことが大切です。①息を口から深く長く吐いて吐き切ります。②鼻から深く長く吸い切ります。必ずしも長い時間行う必要はなく、機会あるときに「ひと呼吸」で良いそうです。
氣の力
そもそも「生きている」という不思議な力は「肉体」にあるのではなく、生命を創造する「氣」の力にあります。それはあたかも扇風機自体に回す力があるのではなくて、電気がこれを回しているのと似ています。人間が肉体に生きる力があるように思うところに、大きな間違いがあります。
積極的な心
今の自分の心は「積極的」であるか、あるいは消極的に陥ってないかということを常に確認することが必要です。少しでも消極的なものを感じたならば、心の中から追い出して明るく、朗らかな心とすることが肝要です。
「笑い」の力
神経系統を消極的に刺激することは、生命に危険を与えることに繋がります。「笑い」は消極的な興奮状態を鎮めるひとつの手段として生体に仕組まれています。終始笑顔で応接することを心がけましょう。特に体の弱い人は、ひとしお「笑い」に努力することを養生の第一とすべきです。
食べ物
「好きなもの」を食べると、神経作用が消化機能を促進し、十分に吸収させます。特に病弱な人に対して、栄養価だけを基準にして、本人の好き嫌いを考慮せずに無理に食べさせるのは間違いです。身体に無理をさせ、活力の減退を引き起こしてしまいます。
人との接し方
他の人が憂鬱になったり悲観していると、同情の垣根を飛び越えて相手を余計に悲観させてしまったりする慌て者や、更には、他人の言動に自分の心を影響させてしまって、不愉快な気持ちやマイナスの気持ちに陥る人がいます。対人関係ではお互いに積極的な心、プラスの氣を交感できるようにしたいものです。
年齢
人間に「年齢」は関係ありません。70歳、80歳になっても情熱を燃やし続けなければいけません。明日、死を迎えるにしても、今日から幸福になっても遅くはないのです。
付録
中村天風の著作や講演録などは多く、その教えも多岐にわたります。今回紹介できなかった教えのエッセンスを、テーマ別に「キーワード」の形でご紹介します。
(気持ち)積極的、明るい、朗らか、前向き、強気、消極的では身につかない、怒る・恐れる・悲しむは消極的思考、
(信念)今の自分の考えが将来を創る、信念を心に映像化する、潜在力、
(集中)目の前のことに氣を打ち込む、今日を生きる、師匠から素直に学ぶ、
(人生)人生の目的は進化と向上、気高い目標、利他の心、人のため世のため、感謝と歓喜で生きる、
(霊魂)宇宙霊と一体となる、人間の正体は霊魂で肉体や心ではない、霊魂が離れると死、病にあっても生きていることに感謝、心や魂は病気にならない、薬に依存せず自然治癒力を発動、
(食)肉は少なく植物性を多く、食べるときはよく噛む、
(天風操法)鏡を見て自己暗示をかける、冷温浴を繰り返す、安生打座法、クンバハカ法