「ウソ」の社会的効用と、脳機能への好影響

家庭で夫婦が話している。夫がBARに行ったウソをついている エッセイ

人間関係を考えると、何事においても「事実を伝える」ことや「本心を伝える」のが、必ずしも適切だとは限らないのかもしれません。社会生活を行う上で適度な良い「ウソ」をつくことは、「大人の嗜み」として許容されているようです。

よい「ウソ」

良い「ウソ」には、いくつかの役割と機能があります。

①ひとつ目は、社会的適応です。社会生活においては、時には本音だけでなく「ウソ」や「建前」で物事をうまく調整することで、集団に適応しやすくなります。

②ふたつ目は、対人関係の円滑化です。「ウソ」は対人関係をスムーズにする「潤滑油」になり、人間関係のトラブルを避けたり、不必要な対立を防ぐ効果があります。また、お世辞や社交辞令などは相手の自尊心を高め、お互いによい印象を与えることができます。

③三つ目は、相手のメンタルや成長を促す効果です。例えば励ましや褒めるための「ウソ」は、相手のやる気や自己肯定感を高め、成長や挑戦意欲を促進することができます。

④四つ目は、自己防衛と心の安定です。「ウソ」は、羞恥や失敗、プライバシーを守るための自己防衛として機能し、自尊感情の維持やメンタルヘルスの安定に寄与します。

つまり、相手のことを思ってつく「ウソ」と、自己防衛のための「ウソ」は、「良いウソ」と言えるようです。ただし、行き過ぎて「ゴマすり」になると、「心にもないことを言う人だ」と周りの人からは、嫌われてしまいます。もっとも、「ゴマをすられた当人」は気分が良いため、たとえば「出世」のためには有益かもしれませんが、、、。

「ウソ」をつくと「ボケ」ない?

「ウソ」をつくと「ボケ」ないという具体的な事例や、科学的根拠は現時点では明確になっていません。しかし、「ウソ」をつくことは脳の複数の認知機能を刺激することから、間接的に脳機能の維持や活性化に寄与していると考えられます。

例えば、ヘソクリや年齢、今日の出来事、交友関係などについての、小さな「ウソ」をつく場合には、記憶の抑制、情報の操作、推論や状況判断といった複数の認知機能が必要となり、特に前頭前野を含む高次脳機能が活性化します。こうした負荷が脳のトレーニングとなり、ボケ予防となる可能性が指摘されています。

この場合の具体的な脳の働きは、「ワーキングメモリ」が事実の記憶を保持しつつ、虚偽のストーリーを一時的に構築します。「抑制コントロール」で真実の記憶を無意識に口にしそうになるのを抑え、作り話を選択する制御します。そして「状況判断・推論」で相手の質問意図や反応を読みつつ、どのような「ウソ」が最も自然で矛盾がないかを推測します。さらに「実行機能」が矛盾が発生した場合に、リアルタイムでストーリーを修正し、整合性を持たせます。

このように、「ウソ」をつくことは単なる「記憶」や「話す」といった単一の脳機能だけでなく、多面的な認知的刺激となるため、特に高齢者にとっては「脳の機能維持や訓練」に、有益であると考えられます。

まとめ

人が一日につく「ウソの回数」の心理学的調査のうち、アメリカの大学生を対象にした研究では、男性が1.57回、女性が1.96回の「ウソ」を1日についていると報告されており、「ウソ」は日常生活に溢れているとも言えそうです。悪意がある場合や相手に不利益を及ぼす「悪いウソ」は、決して許容されませんが、相手を思っての「良いウソ」や、脳機能の訓練になる「小さなウソ」は、積極的についても良いのかもしれません。