「何もしない」が許される「湯治」

湯治イラスト 山の中温泉 エッセイ

現代社会は効率成果自己実現を重視する価値観に溢れています。朝から晩まで予定が詰まり、仕事家庭人間関係の責任に追われる毎日です。上昇志向義務感多忙な状況に価値を見出し、そこに安心感や達成感、自己肯定感を覚えるようになっています。そんな息の詰まる毎日を、「湯治」に行って何もせずぼんやり過ごして、リセットしてみませんか。

「何もしない」の罪悪感

休日や空き時間に、ただぼんやりと過ごしたり、何もせずにリラックスしていると、どこか「もったいない」「怠けているのでは」といった罪悪感が湧いてきます。これは、社会的な価値観や周囲からのプレッシャーによる影響によるもので「休むことは悪いこと」で、「動いていることが善である」という思い込みが心に沁みついてしまっています。SNSやメディアで見る充実した生活に影響され、「何もしていない自分」に対して焦燥感を抱くことも少なくありません。

「何もしない」の効用

何もしない」時間は心を静め、自分と向き合い心に余裕が生まれ、他人への思いやりの気持ちも芽生えます。忙しさに追われていると、思考や感情にゆとりがなく、自分自身の本当の気持ちや願いに気づきにくくなります。また、何かを成し遂げるために頑張る日々が続くと、心身の疲労が蓄積してきます。何もしない時間を過ごすことで、を休めてリフレッシュし、エネルギーを回復することが出来ます。最近の脳科学の研究によると、人が「ぼんやり」しているときは脳がアイドリング状態(デフォルトモードネットワーク)となり、無意識のうちに情報が整理され、創造性ひらめきが生まれやすくなることが分かっています。「何もしない」ということは、次の一歩を踏み出すための大切な準備作業でもあるのです。

「何もしない」が許される「湯治」

湯治とは、温泉地に長期滞在し、温泉に浸かりながら心身を癒す日本独特の療養文化です。現代の温泉旅行が「観光」や「娯楽」の要素を持つのに対し、湯治の本質は「療養」で、回復と再生のための時間です。湯治場では、特別なアクティビティや観光地巡りをする必要はありません。朝起きて温泉に浸かり地元の素朴な食事を食べ、また温泉に入り昼寝をして散歩をする。一見「何もしない日々」を、堂々と過ごします。
温泉成分や温熱効果による身体的な癒しはもちろん、湯治場の静けさや自然に囲まれた環境が、心を穏やかにし深い安心感をもたらします。「何もしない」ことで心がほぐれ、普段は気づかなかった自分の内面や新しい発想に出会うこともあります。自分の呼吸や鼓動、自然の音に耳を澄ませるうちに、ストレスや不安が和らいできます。「何もしない」ことが、心身の健康を取り戻すための最良の方法であることを、湯治は教えてくれます。

まとめ

忙しい現代は、つい「何かをしなければ」と自分を追い立ててしまいがちです。しかし、湯治のように「何もしない」時間を持つことが、心を静め、余裕を取り戻し、心身の疲労を回復するようです。更には、「ぼんやり」することで脳内の情報が整理され、創造性ひらめきという新しい着想の扉も開きます。積極的に何もしない「温泉の旅」を、これからも続けていきたいと思います。