学校を卒業して何十年も経ったこの頃、「同窓会」の誘いが増えています。年齢的に仕事が一段落したり、子育てのほうも子供が独立して手が掛からなくなり、時間と心に余裕が出来てくる頃なのでしょう。先日もそんな同窓会のひとつに参加してきました。参加者のひとりが昔話の細かいエピソードをいくつも披露してくれて、皆で懐かしみ、大いに笑い、楽しかった当時にタイムスリップしたかのように盛り上がりました。「そうだったよね!」「あれは面白かった!」などの相づちの合間に、「えー、そうだっけ?」とか「いやー、覚えてないなー。」などの声も頻繁に発せられ、歳とともに記憶力が衰えてきているのでは?と、少々心細さをも感じる夜でした。
脳科学者によると、記憶は「短期記憶」と「長期記憶」に分類されるそうです。「短期記憶」は「海馬」で行われる一時的な情報の保持で、時間とともに消滅し記憶容量も限られています。一方、「長期記憶」は「海馬」で選ばれた情報だけが「大脳皮質」に送られ長期の記憶となり、その容量は無限大とされています。さて、これら脳の記憶機能は加齢とともに衰退するのでしょうか。オランダで115歳で亡くなった方の脳を検査したところ、脳自体の生体としての老化は全く認められず、このことから脳の生体寿命は120年はあるとされています。大人は歳をとると記憶力が低下したと気にしますが、物忘れの回数は大人も子どもも変わらず、子どもは思い出せなくても気にしていないだけの違いです。また、大人は経験を積むことにより「情報の取捨選択」が上手になり、「海馬」が覚える必要がないと判断した情報は「大脳皮質」に送られず長期記憶としていないこともあるようです。
記憶を定着させるためには、感情や興味を刺激することが有効であることは、実感として理解できます。好きな芸能人や応援するチームに関することはよく覚えていることと思います。また、「海馬」が情報を取捨選択して長期記憶を司る「大脳皮質」に送るのは睡眠時に行われますので、良質な睡眠は記憶の定着にとても重要です。深酒をして酔って寝ると翌朝に記憶がないのは、アルコールによって「大脳皮質」の働きが抑制されて記憶が行われなかったことによります。
さて、同窓会で数々の昔話を披露してくれた彼の記憶力の秘密は何でしょう?おそらく彼が当時のエピソードに関与した度合いが高かったり、興味、感情、感受性などが強かったことによるのでしょう。また、「海馬」はインプット時よりもアウトプット時に、その記憶を深く定着するよう「大脳皮質」に指示しますので、おそらく彼は、これまでに何回もこれらのエピソードを各所で披露していたのでしょう。同窓会好きの人は、おそらく数多くのエピソードを持っていて、繰り返し披露しているのではないでしょうか?
ところで、ここでは「加齢による記憶力の低下はない」としています。一方、認知症による記憶障害がありますが、アルツハイマー型は脳内に異常たんぱく質が蓄積することが原因ですし、脳血管性認知症は脳血管障害が原因です。どちらも加齢の間接的関与はあるかもしれませんが、直接的原因ではないとしています。
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「夢」の仕組みについての別記事があります。ご興味のある方はお立ち寄りください。