通勤電車のドア近くの仕切り板がある端の席は非常に人気が高く、既にほかの席に座っている人もそこが空けば席を移動するほどです。ある調査によると、通勤電車で好んで座る席は、約6割の人がロングシートの端部を選び、約1割の人が車両の端部を選ぶそうです。これら端の席が人気の理由としては、片方が壁となるため隣の人との接触を減らせてパーソナルスペースを守りやすいことと、壁にもたれて休める安心感からなのでしょう。一方では、ドア脇に立っている人にとっても、この仕切り板があることで、立ちながら寄りかかれる数少ない場所として好まれており、両者にとってそれぞれの居心地の良さが共存する「幸せゾーン」となっています。
ただし、仕切り板が低かったりパイプ製の仕切りの場合は、立っている人のカバンや背中、髪の毛が座っている人の方に越境してきて、顔や肩に当たったりして不快に感じることもあるようです。SNSやアンケートでは「立っている人が気付かずに荷物や髪の毛が当たって不快」という声も上がっていますので、気になる人は気にして不満を感じているものの、端の席のパーソナル感や壁にもたれられるメリットを優先して、この席が好まれているというのが実情のようです。つまり、好んで座りつつも、小さな接触には多少の我慢が伴っているようです。筆者の場合は、自分の顔や頭に無遠慮な接近や接触があるのは苦手ですし、立っている人から覆いかぶさるように近寄られるのは、まるで上から見下ろされているような圧迫感があって落ち着きません。極力、ロングシートの中間席に好んで座っています。
ドア脇で仕切り板にもたれて立つ人が、うしろに座る人を気遣って垂直に立ち、越境しないようにすれば問題は解決するのでしょうが、なかなかそうはいきません。特に通勤ラッシュのような混雑した環境では自分のパーソナルスペース確保が難しく、さらにスマホやゲームに集中していると後方に対する配慮も怠りがちです。また、後方に対する気配りという点では、傘を持つときの後方への配慮も大きな問題となっています。東京都が行った傘の安全性調査によると、約4割の人が傘による危害を受けたり、ヒヤリ・ハットの経験をしていると言います。具体的には「階段昇降時に、先端がみぞおちに刺さった」「エスカレーターで先端が顔の前にきた」などの事例が報告され、傘を横向きに持った際のリスクが指摘されています。
かつて日本は社会の結びつきが強く、集団の調和や秩序を重んじる文化が形成され「空気を読む力」や「他人の気配を察する力」が発達し、「他人の視線」や「背後の状況」に注意を払う気配りに満ちていました。昨今は、個人主義が台頭してきたためか「うしろに対する気配り」が薄れてきていることに、一抹の寂しさを感じます。