筆記用具にはこだわるほうで、シャープペンシルはパイロットの製図用S20(0.5mm)マホガニーの木軸を永年使っていますし。赤ペンは、書き味が良いゲルボールペンで、全体的なデザインとゴムのすべり止めが気に入っている三菱鉛筆シグノ307(0.7mm)を、替芯を何回も交換するほど使っています。そして、一番のお気に入りは、万年筆「カヴェコ・ブラス・スポーツ(Kaweco BRASS Sport)」です。
カヴェコは1883年にドイツ・ハイデルベルクで創業した老舗ブランドで、多くの筆記具愛好家から支持を集めています。中でも「カヴェコ・スポーツ」は1930年代に誕生し、1972年のミュンヘンオリンピックでは公式ペンとして採用されました。手のひらに収まるコンパクトサイズが最大の特徴で、シンプルでありながらユニークなデザイン性、さらに八角形の太めのボディは握りやすく、見た目以上に安定感のある書き心地です。キャップはネジ式になっているので、インクの蒸発もなく久しぶりに使うときでも書き出しはなめらかです。限定カラーや素材違いのモデルなどがあり、樹脂製の軽快なものからアルミやスチール、真鍮の金属軸まで幅広いバリエーションとなっています。
愛用品は真鍮製。ずっしりとした本体の重みを感じる書き心地と、時間と共に経年変化し、自分だけの万年筆に育てる楽しみがあります。新品のころは鮮やかな金色だった表面が、いまは指の跡を刻み込んだようにくすんで、鈍い光を宿しています。金属なのにどこか柔らかく、使うほどに色を変え、時間の影をまとっています。
専用の革のケースから取り出すと、革と真鍮の二つの素材が並んで、どこか落ち着いて、凛としていて、大人の小道具と呼びたくなります。スマートフォンでは伝わらない「書く」という行為の確かさを、この小さな道具が教えてくれるような気がします。手に取ると、金属のひやりと、かすかな重みが心を落ち着かせます。どこまでもなめらかな筆の運び。自分の字が少しだけ整って見える気がして、まるでこのペンが気分まで整えてくれるようです。
書き終えて、そっと革のケースに戻します。光の角度で変わる真鍮の色を見送りながら思います。この小さな万年筆と過ごす時間は、自分と向き合う、落ち着いた、静かな幸福のかたちなのかもしれません。

