珍しく映画館に出向いて映画を観る機会が重なりました。一つはシネマコンプレックスで封切られていた「国宝」です。人気の高い作品で、良い評判でしたので観に行きました。もうひとつは、ほんの数席のミニシアターで上映していた「中山教頭の人生テスト」です。知人の親族が出演しているということで、そのご縁で観てきました。
映画そのものの解説や評価は詳しい方々にお譲りしますが、二つの作品を観たときに感じた共通の印象は、どちらも「多くを説明しないんだ」というものでした。
多くを説明しない
ふたつの「映画」では、ストーリが展開していく理由の説明や、その時の登場人物の心情などについての描写が意識的に少なくされているようで、観客の想像力に委ねられている場面が、とても多い印象です。
「テレビ」の場合は「気軽に見られるように」という配慮もあるのでしょうか、テレビのドラマでは話の展開や登場人物の気持ちの動きなどが、わかりやすく描写されているように思います。
映画の手法
「映画」の手法として、物語の因果関係や説明を省いて、観客の主体的な解釈を促すことは古くからあり、余白や沈黙、説明しきらない映像表現（カット）を使うことがあります。
ある映画監督は、「映画って観客がイマジネーションを働かせて観ることで完成するんです。それで、ようやく自分の映画になる。ただ、観客に全てを提示するものではないと思います。暗闇の中で行間やカットから何かを得る。自分の想像力で説明されていない隙間を埋めていくのも映画の魅力。その観客の想像力をどれだけ刺激できるかということに、僕は興味があります」と述べています。
現代社会との関係
現代社会では、多様な価値観やバックグラウンドを持つ観客が増えています。一つの価値観や結論に導くのではなく、多様な解釈を許容することで、観客それぞれの経験や価値観を尊重する姿勢が現代的なのかもしれません。そのため、あえて説明を省略し観客の内面や想像力に委ねる作品が、新鮮に受け止められるのでしょう。今後も多様化していく社会の中で好まれる表現手法として、位置づけられていくのでしょう。
また、インターネットやSNSの普及により、現代人は膨大な情報や多様な意見を日常的に目にしています。そのため、断定的なメッセージよりも、受け手が自分なりの意味を見出せる余地を残す曖昧な表現が好まれる傾向があるようです。ネットの利用が日常的であることから、観客同士が解釈を共有したり意見を交換する文化が生まれており、さらに考えさせる映画の価値が高まってきているようです。現代の多様な価値観を尊重する社会と、観客に考えさせる映画表現は「親和性」があるのかもしれません。
まとめ
久しぶりに映画を見たためか、鑑賞後の余韻というか思い起こしが波状的に訪れてきて、自分の脳内で映画の内容や理解が何度もトレースされ、「考えさせられる」いい映画だったなと満足しています。
多様な価値観が尊重される現代において、映画を見て想像力を発揮し、さまざまな解釈と評価に触れることは、人生観の広がりや深さに大きな影響を与えてくれるのでしょう。また、映画を観に行きたくなりました。