若いころはヘア・スタイルに、けっこう気を使っていました。ドライヤーで髪を整えて、ワックスで固めて、「夕方まで崩れない髪型」を毎朝つくっていました。きちんとした印象を保つことが、大人として当然のマナーだと信じていましたし、「今日もやるぞ」という気合いのスイッチでもありました。ところが歳を重ねると、髪の「コシ」も「量」もじわりじわりと変化してきます。しっかりと固めた髪型ではボリューム感が出ませんし、シワが増え少し柔和になりつつある自分の顔とは、少しちぐはぐな印象です。ふと鏡を見て、「もう少し自然な方が、今の自分にはしっくりくるのでは」と思う瞬間がありました。
そこで、整髪料はワックスを手放し、育毛剤とほんのちょっとのヘアオイルだけにしてみました。洗面所でオイルを軽く馴染ませて、柔らかいブラシで根元から毛先へサッととかします。頭皮の皮脂が髪全体にじんわり広がって、自然にふんわりと立ち上がる感じが気に入ってます。この状態は意外と一日中キープしてくれていて、きっちり固めたような完璧さはないものの、「だらしない」手前で踏みとどまってくれています。少し崩れても、ブラシでサッと撫でればすぐ整う、その「ゆるい安定感」が、今の自分には心地よく感じます。
このスタイルを支えてくれているのは、「100円ショップ」で買い求めた携帯用の柔らかいヘアブラシです。二つ折りで小さく、かさばらないブラシで、100円なのでいくつも購入して、鞄の中、デスクの引き出し、洗面所、リビング、寝室と、家や職場のあちこちに置いてあります。ちょっと気になったときに、すっと手を伸ばして軽く数回とかすことで、頭の周囲がすっと整い、自分の輪郭が少しシャープになったような気がします。
正直に言えば、その仕草をどこかで自分でも楽しんでいるところがあります。「おしゃれに気を使っているオジサン」のような、少しだけ芝居がかった動きですけれども、そのささやかな芝居心が、日々の生活にちょっとした張りをもたらしてくれています。もう若くはありませんが、まだ自分をあきらめてはいない、そんな気持ちをブラシを通す手つきが、代弁してくれているようです。
きっちり固めた若い日のヘアスタイルも嫌いではありませんでしたが、今は自然体の髪型と、小さなブラシが気に入っています。これからも、少しずつ変わっていく自分の髪を大事にいたわりながら、身だしなみの矜持だけは手放さない、そんな歳の重ね方を静かに目指しています。
