群馬県前橋にある「臨江閣」という歴史建築を見学に行った時のことです。前橋公園前のバス停で腰かけてバスを待っていると、グリーンドームという大きな施設から、おばあちゃんが一人出てきて僕の隣に腰かけました。「この建物は何なんですか?」と尋ねると、「競輪。場外だけどね」と予想外の答えです。「なかは涼しくていいのよ、お茶はタダだしね」「数字を見てるとボケ防止にいいのよ、買ってないけどね」と、競輪場を楽しんでいる様子です。「朝は娘に送ってもらったけど、帰りは歯医者だからバスで帰ってきて、と言われたの」と、結構な頻度で通っている常連さんのようです。
おばあちゃんが、どういう経緯で場外競輪場に通い始めたのかはわかりませんが、自分の意志で好きなことをするのは、心理学的にもすごく良いことです。老人だから老人クラブなどでプログラムに従って活動するというのは、一見すると親切で行き届いた環境のようにも見えますが、自分で考えたり判断することがないので、心の使い方が受け身で消極的になってしまう懸念があります。
ハーバード大学のエレン・ランガー教授は人を元気にする要因として、「主導権(コントロール感)」と「マインドフルネス(積極的に「気づく」こと)」を指摘しています。主導権を握る実験では、老人ホームのグループをふたつに分けて、ひとつは通常のプログラムで生活し、もう一つは日々の活動を自ら決めるグループとしたところ、後者のグループが毎日を生き生きと生活し、長生きもしたそうです。マインドフルネスの実験では、老人の生活環境を実験的に20年前の世界に再現したところ、1週間で心身機能の改善が見られました。年齢を「固定的な属性」とみなすマインドレスな捉え方から、「状況と心の持ち方で変わりうるもの」としてマインドフルに捉え直す認知の転換が、健康や能力、若々しさに影響を与えます。
競輪おばあちゃんとの話は続きます。「家にいても暇だから」、「家にいると昼寝しちゃって、夜寝れなくなっちゃうのよ」、「草むしりしても30分で終わっちゃうし」。家にいても退屈なおばあちゃんは、今日も好きな競輪場に出かけているのでしょう。もしかしたら、競輪場以外にもたくさんの「好きな行き先」を持っているのかもしれませんね。
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臨江閣に関する記事があります。競輪おばあちゃんも登場します。ご興味のある方はお立ち寄りください。
