元気な競輪おばあちゃん

競輪のイラスト エッセイ

群馬県前橋にある「臨江閣」という歴史建築を見学に行った時のことです。前橋公園前のバス停で腰かけて待っていると、グリーンドームという大きな施設から、おばあちゃんが一人出てきて僕の隣に腰かけました。「この建物何なんですか?」と尋ねると、「競輪。場外だけどね」と予想外の応えです。「なかは涼しくていいのよ、お茶はタダだしね」「数字を見てるとボケ防止にいいのよ、買ってないけどね」と、競輪場を楽しんでいる様子です。「朝は娘に送ってもらったけど、帰りは歯医者だからバスで帰ってきてと言われたの」と、結構な頻度で通っている常連さんのようです。

おばあさんが、どういう経緯で場外競輪場に通い始めたのかはわかりませんが、自分の意志で好きなことをするのは、心理学的にもすごく良いことだそうです。老人だから老人クラブなどでプログラムに従って活動するというのは、一見親切で行き届いた環境のようにも見えますが、自分で考えたり判断することがないので、心の使い方が受け身で消極的になってしまう懸念があるようです。ハーバード大学のエレン・ランガー教授は「マインドフルネス」ということを提唱していて、人生の主導権を自分が握ることが、生きる原動力になるというのです。

エレン教授は、人生の主導権を握る実験を行いました。老人ホームのグループをふたつに分けて、ひとつは通常のプログラムで生活し、もう一つは日々の活動を自ら決めるグループとしたところ、後者のグループが毎日を生き生きと生活し、長生きもしたそうです。もう一つ「マインドフルネス」の実験も行いました。音楽やスポーツなどのジャンルで、嫌いなものを見聞きしてもらいます。一つのグループは、ただ「マインドレス」で見聞きします。もう一つのグループには、嫌いなジャンルに何か新しい発見するよう「マインドフルネス」であるよう注文をつけました。すると結果は明白で、より注意を払って新たな発見や気づきを得た人ほど、対象を好きになったのです。

すでに知っているとして、心を積極的に使わない「マインドレス」から脱却し、未知なものに接して積極的な気づきを得る「マインドフル」な心の状態とすることで、精神の安定と対人関係の改善、ひいては健康や長寿を得ることができるとされています。

競輪おばあちゃんとの話は続きます。「家にいても暇だから」「家にいると昼寝しちゃって、夜寝れなくなっちゃうのよ」「草むしりしても30分で終わっちゃうし」。家にいても退屈なおばあちゃんは、今日も好きな競輪場に出かけているのでしょう。もしかしたら、競輪場以外にもたくさんの「好きな行き先」を持っているのかもしれませんね。

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臨江閣に関する記事があります。競輪おばあちゃんも登場します。ご興味のある方はお立ち寄りください。