草津温泉の居酒屋にて

草津湯畑 奈良屋 エッセイ
草津温泉湯畑 奥に奈良屋

草津温泉に一人旅をしたとき、晩御飯に「金沢おでん」を売りにした居酒屋をチョイスしました。おでんなら一切れずつの提供なので、ひとりでもいろいろな種類を、しかも熱々で食べれるな、と我ながらいい選択だと満足して暖簾をくぐりました。金沢おでんの名物、車麩、赤巻などのほかは定番の大根、厚揚げなどを食べつつ、店自慢の「トロサバ塩焼き」などに舌鼓を打ってると、もういい気分です。

「マスター、なんで草津で金沢料理なんですか~?」とお尋ねすると、金沢や石川で長く料理の経験を積んで、その後草津に流れ着いたそうです。草津では湯畑近くの高級和風旅館「奈良屋」の料理長をしていましたが、料理長になると会議や打ち合わせが増えて、好きなゴルフをする時間が無くなったということで、辞めて自分の店を開いたそうです。好きなゴルフは、年間100回。1年は52週しかないので、雪が降る草津としては驚異的な回数ですね、自由です。

自由と言えばもうひとつ。離婚を3回しているとのこと。子供は全部で9人いて、養育費が月30万円だというのですから驚きです。子供たちとは仲が良くて、なかにはお店を手伝いにくる子もいるようで、うれしそうに話しを聞かせてくれました。子供がいると人生が深くなりますよね。子供に限らず友人や人との関わりも人生を彩ってくれるけれども、子孫という意味では未来につながる特別な存在。それが9人もいるのですから、人生楽しいでしょう。離婚をしていなければ、9人もの子供に囲まれることはなかったのかもしれませんね、自由です。

わりと大きな店で、テーブル席もいくつかありますが、そこには「予約席」の札が置かれています。「ご予約のお客さん、遅いですね。」と尋ねると、お客さんを入れないためのダミーの札だというのです。草津には大学などの学校がないため若者が少なく、アルバイトをなかなか雇えないとか。アルバイトがいない日は、料理の提供に時間がかかりお客さんを待たせることがないよう、席数を減らして対応しているのだそうです。もったいないですね。

長くカウンターで飲んでいると、「これ食べてみる?試作品の焼きチーズ。俺、チーズ好きなんだ。」と、丸くコロコロしたチーズ風味のおつまみをサービスしてくれました。アルバイトが雇えないなど、経営的には厳しい面もあるのでしょうけど、メニューの考案など「料理に対する情熱」はいささかも衰えていないようです。この方の人生は、きっとうまく回っていくんだろうな。と感じた素敵な夜でした。

焼きチーズ(試作中)

草津温泉に関する別時期があります。ご興味のある方はお立ち寄りください。居酒屋の話も出てきます。