九州の福岡市では「天神ビッグバン」と称して、大規模な都市再開発がいくつも進行しています。いくつかは竣工済みですし、まだ工事中や、計画中の地区もあるようです。福岡に出かける用事のついでに、開発の様子を少し見物してきました。主にオフィスや商業、ホテルなどの複合施設からなり、魅力あるデザインが競演し、植栽や緑化のほか木材も使われ、憩いの空間が演出されています。耐震などの防災面も強化され、省エネも大いに進化しているのでしょう。素晴らしい街に生まれ変わりつつあるようです。
と、再開発ビルから通りを挟んだ向こう側に、鳥居がひっそりと佇んでいます。興味深く感じて訪れてみると、真新しい高層ビルに囲まれながらも、静かに空気が変わります。この神社は、菅原道真公が太宰府に赴く前に立ち寄り、近くを流れる四十川の水面に自分の姿を映した故事に由来して「水鏡天満宮」と名付けられます。江戸時代になると、福岡藩主の黒田長政公により福岡城の鬼門(北東の方角)にあたる現在地に移され、以来この地域が「天神」と称されるようになった、天神の起源となる由緒正しき小さな社です。

参拝にあたって手水舎に向かうと、手水の水は止められて、代わりに消毒液が置かれています。消毒液はコロナ禍で馴染みになりましたが、少々風情が足らないなと思ったところ、実状は少し異なるようです。福岡はそもそも水不足に悩まされている土地柄で、人口に比べて高い山や大きな河川が少なく、年間降水量が梅雨期と台風期に集中するため、それ以外の時期は水が不足しているようです。大規模な開発で最先端の利便性を享受できるのだけれども、ちょっとした気象の気まぐれで、日常生活に支障が出てしまう、人間生活の脆弱さを垣間見た気がします。

神社の横手に沿って、「博多名物うまかもん通り」という小さな飲食店が立ち並ぶ小路があります。看板からして昭和の香りがする、どこか懐かしい雰囲気です。どこからともなく魚を焼く香ばしい匂いが漂い、先には長い行列がありますので、どうやら鯖の人気店のようです。この通りの反対側の入り口には、小さな鳥居がありますので、かつてはこの通りも神社内の参道だったのでしょう。「信仰の道」と「食の道」が緩やかに共存して、賑わいを取り戻しているところに、地域に根差した街おこしの魅力を感じます。


天神の街並みはどんどん未来的になっていきますが、それでも水鏡天満宮や、周辺の飲食店などの小さな場所が、都会の呼吸を整えてくれている気がします。水鏡天満宮の「水鏡」は、新しいものを映し、古いものを映し、どちらも同じように受け入れているのでしょう。そんな柔らかさが、福岡の街の懐の深さなのかもしれません。
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