草津温泉を湯治で訪れ「西の河原公園」辺りを散策していると、イタリアンカフェが併設された「片岡鶴太郎美術館」に辿り着きました。レストランで小腹を満たしワインで心地よくなってから、美術館を訪ねてみました。
草津「片岡鶴太郎美術館」
エントランスがイタリアンカフェと共通になっている肩肘張らずに入れる美術館です。大きな美術館のような広い展示空間ではありませんが、「絵画」だけでなく「書」「陶器」「漆器」「屏風」などが静かな親しみをもって迎えてくれます。片岡鶴太郎は40代から本格的に絵画に取り組み、個展を開くようになります。個展を始めて3年が経った頃、作品に惹かれた地元の草津ホテルが数々の作品を購入し、温泉地の町おこしの一助として「鶴太郎美術館」を造りました。草津で始まったその縁は、福島県飯坂温泉、石川県山中温泉、佐賀県伊万里市へもつながり、鶴太郎の作品を紹介する施設が次々と開館しています。





片岡鶴太郎の画題は、花や野菜、魚、鳥など、暮らしのすぐそばにあるものが題材です。単なる写生ではなく、太くのびやかな線、余白を恐れない構図、どこか戯画的でいて、対象への愛情がにじむ色づかい、書を加えたり、切り貼りの手法を用いたり、「画はアイデアだ」という信条が見事に表現されています。作品の前に立つと、ふだん何気なく見過ごしている一輪の花や一尾の魚にも、それぞれの命の表情があるように感じられ、心に幸せな気持ちが満ちてきます。
「好き」を開花させる才能
片岡鶴太郎は芸人として広く知られる一方で、絵画だけにとどまらず、ボクシングに打ち込み、俳優として役を深め、書に親しみ、料理を工夫し、ヨガや瞑想にも長く向き合ってきています。その多彩さを、器用さという一言で片づけることはできません。大切なのは、彼が興味を持ったものを話題づくりとして終わらせずに、人生観として昇華して日々の稽古や日常生活のなかへ組み入れていることです。ヨガの実践は真夜中に数時間かけて行い、そのためには酒・煙草・夜の会合・人付き合いをやめています。食事は1日1食とすることで集中力を高め、神経を研ぎ澄ませています。絵画は40歳から60歳までの20年間で毎年100点を描くことを自らに課した目標として、それ以上の絵画を描き続けています。年に100作品というと単純計算で月に8~9点、週に2作品ですから驚異的な集中力です。
年齢を理由にしない生き方
彼は125歳まで生きることを公言し、死の直前までは元気に現役の生活を行い、午睡をするか如く息を引き取ることを目標としています。そのための準備としてのヨガや食事法の実践ですが、それにもまして大切にしていることは、生き方そのものです。ヨガでは「神と一体となる」と表現するようですが、大いなるものとの一体感、宇宙の原理・理にかなった生き方が重要だとしています。彼はジェームズ・アレンの「原因と結果の法則」を例に引き、良い結果の背後には良い原因があるとして、良い原因は「良い言葉・良い行い・良い思い」に起因するとしています。
人生は歳を重ねるごとに経験を積み、ますます実りのある豊かなものになります。言葉遣いも話題も上品で、人に対する思いやりやその場にあった話題を提供できて、ウイットに富んでいる。すぐに感情的になったり人の悪口を言ったりせずに、酒に酔って乱れることもない。品格のある人生を生きる精神が顔に出て、味のある人間的魅力に溢れた雰囲気を醸し出すようになってきます。
湯上りに残った言葉
美術館を出ると、草津の空気はすでに夕方の冷たさを含んでいました。湯に浸かり、ワインを一杯飲み、花や魚の絵を眺めただけの午後です。この日の旅で、年齢を言い訳にせず「好き」を続けることの強さを教わった気がします。筆者にとっては、呼吸法やストレッチ、スケッチや食事回数を減らすことなどは、興味のフィールドが重なっていますので、先達の姿勢から自分なりの稽古を学び取りたいと思います。