葛飾北斎の有名浮世絵は晩年の作品、最後には小布施で肉筆画を描く 

北斎 富嶽三十六景 赤富士 趣味

浮世絵といえば葛飾北斎といっても過言ではないでしょう。江戸時代に活躍した天才絵師で圧倒的な画力と奇想天外な発想で3万点超ともいわれる作品を残しています。90歳で亡くなる直前まで現役を貫き「あと10年、いや5年生き永らえれば真の絵描きになれるのに」と生涯向上心に燃えた情熱の人でした。

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浮世絵とは

浮世絵は江戸時代に発達した日本の大衆画で、風景、美人、役者など自由な題材で身近な風俗生活を描いています。基本的に明るく楽しい浮世の精神が表現されていて、現代の私たちも浮世絵鑑賞を通じて江戸時代にタイムスリップて当時の風習を楽しむことができます。

北斎 富嶽三十六景 甲州石班沢
富嶽三十六景 甲州石班沢 出典:日本三大浮世絵コレクション2020 日本浮世絵博物館蔵

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葛飾北斎とは

画風

葛飾北斎は幼いころから絵を描くことが好きで、19歳で人気浮世絵師勝川春章に入門してからは、様々な画風の研究と画力の向上に情熱を傾けました。有名な作品のひとつが富嶽三十六景のなかの1枚神奈川沖浪裏です。ダイナミックな構図に大自然の脅威と人間の営み、超然とした富士が描かれており「グレートウェーブ」と呼ばれ世界的にも有名な作品です。ちなみにこの作品は2024年に発行される新千円札の図案にも採用されています。

北斎 富嶽三十六景 神奈川沖浪裏
富嶽三十六景 神奈川沖浪裏 出典:図録日本三大浮世絵コレクション2020 太田記念美術館蔵

変人

一方、北斎はかなりの変わり者でした。そのひとつが画号を頻繁に変えたことで、その回数はなんと30回に及びます。我々は彼のことを「葛飾北斎」と呼んでいますが、その画号を使っていたのはほんの一時期です。「春朗」から始まって「宗理」「戴斗」「為一」などなど。最後は「画狂老人卍」ですから確かに変わり者です。

ふたつ目の変わり者ぶりは、生涯に引越93回もしたということです。験(ゲン)を担いで100回を目指していたという説もあるようです。実際は掃除をするのが億劫で部屋が散らかったら引っ越す、ということを繰り返したというのが通説です。絵を描くことに全精力を集中し、絵を描くこと以外には無頓着だったのでしょう。

画号の変遷と代表作

代表的な画号年齢代表作品を簡単な一覧にしてみました。

  • 春朗     19歳-34歳   勝川春章入門 役者絵など
  • 宗理     34歳-44歳   俵屋宗理入門 狂歌絵など
  • 北斎、戴斗  45歳-60歳   北斎漫画、東都名所一覧、東海道名所一覧
  • 為一     61歳-73歳   富嶽三十六景諸国瀧廻り
  • 画狂老人卍  74歳-90歳   富嶽百景、八方睨み鳳凰図富士越龍図

我々が馴染みがある多色刷り浮世絵は「為一いいつ)」時代の60歳代以降に描かれたものです。特に有名な富嶽三十六景」と「諸国瀧廻り」は共に70歳以降の晩年の作品です。83歳になってから北斎はたびたび信州小布施を訪れ多くの肉筆画を描いています。そのうちの1枚「画狂老人卍」時代の八方睨み鳳凰図88歳の時の作品です。富士越龍図90歳の作品で、亡くなる3ヶ月前に描きました絶筆の作品だと考えられています。葛飾北斎生涯絵描き現役を貫き通しました。

北斎 富士越龍図
富士越龍図 立ち昇る雲の中、龍が天に走る

諸国瀧廻り 【木曽路の奥 阿弥陀ヶ瀧】

北斎 木曽路の奥 阿弥陀ヶ瀧
木曽路の奥 阿弥陀ヶ瀧

阿弥陀ヶ瀧」は筆者が浮世絵北斎が好きになったきっかけの作品です。諸国瀧廻りシリーズ8枚のうちの一枚で、の表現はもとより、藍、緑、黄土ののバランス、左右から迫る崖の大胆な構図、そして「見えないはずの滝口の先」を流水紋で描写し、豊かな水量が想像できることに感動しました。この画家は「見えないものも見える」んだと。そして崖の上では男たちが昼食をとっています。ちゃんとゴザを敷いて、下男は火に鍋をかけて本格的です。こんな江戸の生活の一部を切り取って現代に伝えてくれる浮世絵の魅力にも引き込まれました。

小布施 【八方睨み鳳凰図】

北斎 岩松院 八方睨み鳳凰図
岩松院天井画 八方睨み鳳凰図

小布施の豪商で、画家であり、文人でもあった高井鴻山の招きにより、北斎83歳の時から4度ほど小布施を訪れました。小布施でも多くの作品を描きましたが、なかでも有名なのが岩松院の天井壁画八方睨み鳳凰図です。畳21畳ほどの大きさで1年かけて描きました。絵具代だけで150両かかったそうですから、現在の価格に換算しますと1両10万円として1,500万円もの絵具代です。そのため170年経った今も、一度も塗り直さずにその美しさを保ち続けています。

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北斎生涯年表

小布施北斎館に北斎の生涯年表が掲示されていました。非常にわかりやすく、彩色豊かな錦絵は晩年の72歳以降の作品で、美しい肉筆画は最晩年の77歳以降の作品であることがひと目でわかります。

北斎年表 晩年を拡大
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まとめ

葛飾北斎浮世絵は全国各地の美術館の浮世絵展などで身近に鑑賞することができます。常設の美術館としては東京都墨田区の「墨田北斎美術館」と長野県小布施町の「北斎館」がありますが、特に小布施は北斎が晩年に制作の拠点としていたことから、肉筆画天井画など貴重な作品を見ることができます。また小布施には北斎を招聘した高井鴻山記念館や「八方睨み鳳凰図」がある岩松院もあり、北斎を活かした町おこしが行われていますので、楽しく街を散策することができます。

アクセス、宿

小布施長野駅から長野電鉄特急で23分のところにある小さな町です。小布施観光拠点にするならば、長野駅からのアクセスが良いので長野拠点にするのがスタンダードだと思います。もちろん小布施町にも宿泊施設がありますので小布施宿泊も可能です。また温泉に興味のある方でしたら、小布施駅から長野電鉄特急で22分湯田中温泉に宿泊するのもいいかもしれません。武田信玄隠し湯といわれる温泉地です。石畳木造建築の風情ある街並み外湯めぐりなどが楽しめます。

湯田中温泉の紹介がある別記事です。武田信玄の隠し湯をテーマに書いています。

小布施 北斎館HP リンク

すみだ北斎美術館HP リンク

小布施町 高井鴻山記念館HP リンク

岩松院HP リンク 

北斎の浮世絵と肉筆画の紹介と小布施にある北斎館、高井鴻山記念館、小布施の街についての紹介記事があります。ご興味のある方はお立ち寄りください。