浮世絵で知った「十二直」。天文学が根拠の運勢判断。

浮世絵 歌川国貞 十二直 建 趣味
十二直「建」皐月初幟

日常生活を描写する「浮世絵」では、たまに不思議なものに出会います。今回鑑賞した浮世絵では、運勢判断の手法の「十二直(じゅうにちょく)」が描かれていました。江戸の庶民にも馴染が深かったという「十二直」について調べてみました。

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暦、「十二直(じゅうにちょく)」

十二直」は、古代中国が起源で天文学に根ざしています。北斗七星の柄杓が指し示す方角が季節や時刻の指針とし、その変化をもとに吉凶を判断する仕組みです。建・除・満・平・定・執・破・危・成・納・開・閉の12種類が順に循環し、それぞれの日に吉凶や適した行動が割り当てられます。平安時代に日本に伝来し、明治時代までは暦注として広く普及していた暦の吉凶判断法です。

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浮世絵「十二直」

歌川国貞の浮世絵シリーズ「意勢固世見見立十二直」(いせごよみみたてじゅうにちょく)は、当時主流であった暦「十二直」を題材に、その意味吉凶を当てはめた日常風俗年中行事の情景を描いた美人画の愉快な連作です。

破、神無月

美人がひとり手紙を破り捨てて、ヤケ酒を飲んでいます。「十二直」の「」は物事を突き破る、ということで訴訟や漁猟には良い日とされますが、約束や祝い事には凶日とされています。恵比寿詣りの約束のあてが外れて、ひとり禁酒を破ってヤケ酒です。10月神無月はすべての神様が出雲に出向きますが、留守番している恵比須様に自らを投影しているのでしょう。

浮世絵 歌川国貞 意勢固世見見立十二直 破
歌川国貞 十二直「破」神無月

開、睦月

松飾に凧揚げの新春の目出たい風景です。「十二直」の「」は、開き通じるということで、開運吉兆の印であり、青陽来福の大吉日だとされています。穏やかな新春の一日、笑い溢れる平和な日常が目に浮かびます。

浮世絵 歌川国貞 意勢固世見見立十二直 開
歌川国貞 十二直「開」睦月 

浮世絵「十二直」の特徴

十二直」の運勢判断と庶民の生活行動や季節行事が巧みにリンクされ、人物の仕草や背景の小道具で願いや験担ぎを自然に表現されています。当時人気の高かった美人画としていることから、見る者に親しみとともに季節感が伝わります。当時の庶民に四季折々の季節感の知識が浸透していた様子がうかがわれ、江戸文化の奥行きを感じることができます。

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暦、「十二直」一覧

十二直意味主な吉主な凶
万物を建て生ずる事始め、婚礼動土、蔵開き
障害を取り除く治療開始、掃除婚礼、動土
すべてが満ちる移転、婚礼動土、服薬始め
平安に鎮まる旅行、婚礼穴掘り、種まき
事が定まる開店、婚礼訴訟、旅行
執行し促す祭祀、祝い事金銭の出入り
物事を突き破る訴訟、漁猟祝い事、約束
物事を危惧する控えめによい旅行、登山
成就する新規事、建築訴訟、談判
物事を納め入れる収穫、買い物結婚、見合い
開き通じる入学、開業葬式など不浄事
閉じ込める金銭出納、墓造婚礼、開店
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「十二直」と「六曜」

十二直」は、北斗七星などの天体観測と季節・干支の循環という一定の自然現象に基づいて割り当てられていますので、農村社会や祭祀との結びつきも強く、実用本位で年中行事や実生活向きだと評価されていました。

一方、「六曜」は、明治時代以降に広まったもので、先勝・友引・先負・仏滅・大安・赤口の6つから成ります。旧暦の月と日を足した数字を6で割った余りの数字から割り当てるもので、天文学的根拠や実証性はありません。日本でも導入当初より「迷信」として扱われることも多く、現代の学術的観点では信憑性は高いとはいえません。結婚や葬儀の日取りなどに特化し、現代でもカレンダーには多く使われています。

信憑性・合理性は「十二直」の方が高い評価を受けていますが、いずれも現代では伝統文化としての役割とされることが多いようです。

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まとめ

昭和初期まではカレンダーにも「十二直」が記載されていたようですが、現代の暦にはほとんど登場しません。日常生活で活用する場面が減ったために自然に淘汰されてきたようです。一方、「六曜」などは科学的根拠は乏しいものの、大安はすべてに吉、仏滅はすべて凶、一粒万倍日など、簡明で分かりやすく活用しやすい暦注は細々と存在しています。すべてが合理的で忙しい現代において、浮世絵に見られるように「十二直」の運勢判断と日常の生活、季節行事などを重ね合わせて、日々の生活に少しのメリハリをつけるのも、面白いかもしれません。