「みなとみらい21」として開発が進む横浜地区ですが、昔ながらの建物も数多く残されています。その中でも日本大通り地区にある3つの建物は「横浜3塔」と呼ばれそれぞれにニックネームが付けられています。横浜3塔の神奈川県庁本庁舎「キング」、横浜税関「クィーン」、横浜開港記念館「ジャック」についてご紹介しましょう。また少し離れた馬車道にある神奈川県立歴史博物館は「エースのドーム」の愛称で親しまれています。
キング(神奈川県庁本庁舎)
施設概要
1923年の関東大震災で焼失した前の県庁に替わり1928年(昭和3年)に建てられました。建設にあたっては広く設計案を公募し、当選案をもとに県の建築技師が実施設計を行いました。鉄筋コンクリート造、地上5階地下1階で中央部には建物のシンボルである塔が立ち上がっています。国の重要文化財に指定されています。
平日は6階の資料展示室と屋上が一般解放されていて自由に見学することができます。
外観はスクラッチタイルを用いた和洋折衷様式です。中央部には和の雰囲気を持つ塔がそびえています。幾何学的な装飾が随所に用いられスクラッチタイルと白い花崗岩の組み合わせはライト様式とも言われる手法です。正面玄関はアールデコの直線模様で装飾されています。
設計競技、竣工、現況
6階の資料展示室に設計コンペの当選案と工事竣工写真、現況写真が掲示されていました。設計案に比べて竣工写真は塔の高さが低く抑えられていますが、その代わり水平の蛇腹部分の意匠や壁面の陰影を強調したデザインとなっています。
塔のディテール
屋上に上がって塔を間近に見ることができます。柱型が強調された縦にスッと伸びるデザインですが、柱型のディテールはとても凝っていて、塔の質感を高めることにつながっています。
軒先の装飾と胴蛇腹の装飾は銅板で各々異なったデザインが採用されており、塔そのものと建物全体の印象に大きな影響を与えています。
キングの屋上から見た「クィーン」と「ジャック」
キングの屋上から「クィーン」と「ジャック」を間近に見ることができます。クィーンは全体が白くスマートな印象で、青緑色のシンプルなドームから女性らしさを感じます。一方のジャックは赤煉瓦と白い花崗岩で繊細にデザインされ、ディテールに富んだ屋根の装飾から端正さと凛々しさを感じます。
内装
内装のいたるところに「宝相華」(唐草文様のひとつで極楽浄土に咲く幻の華、平等院のそれと似ている)の文様が使われています。
柱、天井、照明器具にも昭和初期の重厚なデザインが施され、歴史の重みを感じます。
クィーン(横浜税関)
施設概要
1934年(昭和9年)大蔵省の技師吉武東里の設計により建設されました。吉武は国会議事堂を設計したことで知られています。当時は横浜港で一番高い建物であり、イスラム寺院風でエキゾチックな雰囲気と、白くスマートで青緑色のドームを持つ高い塔で横浜港のシンボルとなりました。
展示資料室は年中無休で解放されていますが、7階の横浜港を一望できる展望テラスは不定期での解放となりますので、詳細は横浜税関のホームページで確認する必要があります。
外観
建物壁面には四角の窓が整然と並んでいますが、最上階のみがアーチになっていることで柔らかさが出ています。
外壁ディテール、軒飾り
奥行のある窓が建物の陰影を造り、スマートな中にも重厚感を醸し出しています。軒の全周にわたって大小の軒飾りが配置されています。総数は400個で大小ともに棕櫚(しゅろ、パルメット)の文様です。
税関長室、展望テラス
この建物には終戦直後にGHQの本部が置かれマッカーサー元帥が税関長室を利用していました。当時の写真をもとに寄木の床材や天井の装飾など当時の意匠を再現しています。
7階の展望テラスからは横浜港を一望することができます。大桟橋も目の前ですが、一般公開は常時行われておらず不定期での公開となります。
ジャック(横浜市開港記念会館)
施設概要
横浜市開港記念会館は、開港50周年を記念して公募設計と横浜市民の寄付により1917年(大正6年)に建設されました。関東大震災で外壁を残して屋根と内部を焼失したため、1927年(昭和2年)に再建し、1989年(平成元年)にも復元工事を行いました。さらに令和3年12月から令和6年3月まで保存改修工事が行われており、内部の見学は中止されています。1989年(平成元年)国の重要文化財に指定されています。
1959年(昭和34年)から公会堂として利用されており、講堂や会議室、資料展示室などにより構成されています。月に1回、普段見られない講堂や会議室を一般公開しています。また、通常非公開の時計塔は年に数回開放されます。
外壁
外壁は腰石までは花崗岩積みで、その上は赤煉瓦と白い花崗岩を積み上げた辰野式スタイルで華やかで豪華な印象です。屋根は東南隅に高塔の時計塔のほか各隅には八角ドームや角ドームを造り、意匠を凝らした屋根部としています。
時計塔
ジャックの塔は時計塔です。赤煉瓦と白い花崗岩でデザインされた高塔は気品を感じる美しさです
角ドーム
外壁の美しさも素晴らしいですが、屋根部の意匠、繊細なデザインも素敵です。建物両端に直線による角ドームとむくりの入った曲線による角ドームが配されています。
八角ドーム
時計台の西方の角には、八角ドームが配されています。建物外壁形状そのままに屋根部には八角ドームが重厚な印象で佇んでいます。道路の角に位置しているため遠くからに視認性にも優れています。
入り口
いくつかある入り口もその目的や使用頻度に応じて、様々な形状・意匠と大きさで配されています。デザインされた照明塔が素敵です。
ステンドグラス
横浜市開港記念会館を訪れたら必ずチェックしておきたいのが貴賓階段室と2階広間のステンドグラスです。横浜開港当時の様子、黒船などが描かれています。
保存改修工事中で内部の見学はきなかったため、KYUKON STAINED GLASSさんのHPからステンドグラスの写真を転載させていただきました。ステンドグラスについての詳しい説明もありますのでご興味のある方はご訪問されてはいかがでしょう。
出典:KYUKON STAINED GLASS HP 横浜市開港記念会館
横浜三塔物語
横浜三塔の愛称は、昭和初期に外国船員がトランプのカードに見立てて呼んだことが由来とされています。キングは神奈川県庁、クィーンは横浜税関、ジャックは開港記念会館です。この三塔を同時に見れる場所は限られていてわずか3ヶ所です。この3つのスポットを1日で廻ると願いが叶う、カップルで巡ると結ばれるという噂「横浜三塔物語」もあります。スポットには目印も設けられていますので訪れてみてはいかがでしょう。
3つのスポットとは、①赤レンガパーク、②日本大通り、③大さん橋、です。
エースのドーム(神奈川県立歴史博物館)
施設概要
1904年(明治37年)旧横浜正金銀行本店として建設されました。横浜正金銀行とは貿易金融取引を専門に担当する銀行として設立され、大正期には世界3大為替銀行のひとつとなる大銀行です。
設計は妻木頼黄(つまきよりまさ)で石材を使ったネオ・バロック様式で、正面の大きなドームが印象的な豪華、華麗な外観です。
竣工からわずか19年後の1923年(大正12年)には、関東大震災により外壁を残して焼失してしまいます。その後1967年(昭和42年)には県立博物館として復元再建され、1969年(昭和44年)に重要文化財に指定されます。
出典:『写真集 大正の記憶 学習院大学所蔵写真』(吉川弘文館、2011年)P212
建物の意匠
大きなドーム屋根の下にある三角のペディメント(破風)には彫刻が施され、1階から3階まで貫く角柱の柱頭にはコリント式の装飾があしらわれています。
1階から3階まで貫く柱(大オーダー)の迫力がすごいです。階ごとの窓枠の意匠も異なっていて建物の印象が単調にならないように配慮されています。
建物側面の端部にも三角のペディメントが配されています。こちらのペディメントは正面のそれと異なり彫刻は施されていません。
整然と並ぶ「大オーダー」(1階から3階まで貫く柱)は窓ごとに多数配置されていますので、側面から見てもとても綺麗です。
神奈川県立歴史博物館
1967年(昭和42年)から県立博物館として運用してきましたが、1995年(平成7年)には県立歴史博物館としてリニューアルオープンしています。展示は古代、中世、近世、横浜開港と近代化、現代により構成され、展示内容はかなりのボリュームで詳しく解説されています。
2階、3階の展示室は有料(300円)ですが、1階の施設と通路、ミュージアムショップ、喫茶室、コレクション展示、ライブラリーは無料で入ることができます。
まとめ
横浜には今回ご紹介した施設以外にも数多くの歴史的建築物が残っています。見学したり、飲食・物販で利用できる施設も多くありますので、機会があれば一度訪ねてみてはいかがでしょう。
横浜市認定歴史的建造物一覧HP リンク 100を超える歴史的建造物が認定されています。