東京近郊の温泉地と言えば「熱海」が有名ですが、最近は人気が過熱してオーバーツーリズムな感じもします。せっかく温泉にはいってゆっくりしようと考えても、混雑が気になったり、予約が取りずらかったり、料金が高かったりしてしまうこともあります。「熱海」は新幹線でも行ける交通至便なところが人気の理由のひとつですが、そこから在来線でわずか3駅の「網代」まで足を伸ばしますと、混雑とは無縁の、どこか懐かしい港町特有の風情を残す温泉地があります。
網代温泉
「網代」へは熱海からJR伊東線で3駅です。東京から乗り換えなしの特急踊り子号も「網代」に停車します。熱海発のローカル線の車体はラッピングされていてリゾート感に溢れていますが、ハワイ風の絵柄の中に、なんと「アジの開き」も描かれていて、伊豆半島の特産がさりげなくアピールされているところが、グッド!です。


港町として隆盛を極めた「網代温泉」は、別名「南熱海温泉」と呼ばれ熱海の秘湯ともされてきました。豊富な湯量を誇り、源泉を持つ宿も何軒かあり、日帰り入浴も受け入れています。「熱海温泉」に比べると、どこか庶民的でのどかな風景を残す温泉地ですが、江戸時代から港町として栄えており、現在でも網代港は豊富な水揚げ量を誇ります。なかでも「アジ」が有名で、海沿いの道は網代名物の干物屋が30軒近く軒を並べる「干物銀座」となっています。

網代港は、かつては「京・大阪に、江戸・網代」とも称される良港で、諸国の廻船でにぎわっていました。伊豆半島の東海岸随一の天然の良港で、江戸への海路の中継の要衝であり、順風に帆を上げれば約10時間で江戸に到着する、地の利を得た港でした。風の力で航行する帆船は良い風向きになるまで何日も港に碇泊したため、港には廻船宿が設けられ大いに街も賑わったとされています。
源泉かけ流し料理旅館「平鶴」
伊豆半島では海岸線に国道が通っているため国道より海側にある旅館は稀ですが、「平鶴」は国道より海側に位置し、しかも高台ではなく建物のすぐ横が海という恵まれた立地です。全ての客室から網代湾を眺めることができ、潮騒と海の香りが心地よい寛ぎをもたらします。

熱海の魚屋平沢鶴吉「平鶴」からのれんを分けて始まった温泉宿「平鶴」は、魚屋直営だからこそ手に入る、網代漁港に水揚げされたばかりの新鮮素材の磯料理を楽しむことが出来ます。


「網代温泉」は、源泉温度60℃、ph7.8の弱アルカリ性、低張性温泉で、無色透明、弱塩味、無臭の良泉です。湯舟と海が一体となり、波音を聞きながら「源泉かけ流し」の湯を楽しむ至福の時が流れます。



来宮(きのみや)神社
熱海駅と網代駅の間の「来宮駅」に来宮神社があります。きれいに整備された神社で、入り口の竹の参道も清々しい神社です。来宮神社のご神木「大楠」は国指定天然記念物に選定されており、樹齢は二千年を超え、全国2位の巨樹とされ、その幹周りは24mにも及びます。現在も樹勢は盛んで枝葉は広がり、内から溢れる生命力に「気」を感じます。


一方、神社の諸施設は、本殿、拝殿、神楽殿などのほか、茶寮や休憩スペースなどもモダンに整備され、喫茶やカフェ、スイーツやソフトクリーム、ビールなどを楽しむことが出来ます。歴史ある神社ながら、時代に即した整備が行き届いている、例えていえば「女子力の強い神社」の印象です。

まとめ
「網代温泉」は、熱海温泉の人気や知名度がとても高いので馴染みが薄いですが、熱海のすぐ先ですし、自家源泉を持つ宿も何軒もあります。網代港に水揚げされた魚を楽しんだり、観光客の少ない静かな環境をお好みの方には、適した温泉地かもしれません。帰路、熱海方面に向かう途中に「来宮神社」がありますので、立ち寄ってみるのも楽しみです。