東京都庭園美術館は、旧朝香宮邸の建物を活用した美術館と、広大な敷地に拡がる庭園から構成されています。アール・デコの代表的建築である旧朝香宮邸を舞台に、1925年のアール・デコ博覧会の宝飾部門でグランプリを受賞したヴァン・クリーフ&アーペルのハイジュエリーが展示されています。
アール・デコとアール・ヌーボー
アール・ヌーボー
19世紀末から20世紀初頭にかけて「アール・ヌーヴォー」がヨーロッパ各地で花開きます。産業革命による大量生産への批判と、生活に芸術を取り戻すという精神に基づくものでした。花や植物などの有機的なモチーフや自由曲線の組み合わせた装飾、鉄やガラスといった当時の新素材の利用などが特徴です。 「曲線的、有機的、非幾何学的、非対称、平面的」な美意識を体現しています。
アール・デコ
「アール・デコ」は、アール・ヌーボーの時代に続き、ヨーロッパおよびニューヨークで1910年代半ばから1930年代にかけて流行したデザインです。1925年にパリのセーヌ河畔で開催された「アール・デコラティフ(装飾美術)」博覧会が名称の由来とされており、幾何学図形をモチーフにした記号的表現や、原色による対比表現などが特徴です。アール・デコ博覧会の会場外壁にも、円弧や直線を組み合わせた文様が施され、この博覧会がアール・デコ様式のはじまりとされています。「直線的、無機的、幾何学的、対称的、立体的」な美意識です。
旧朝香宮邸
明治時代の皇族、朝香宮鳩彦王は、パリのアール・デコラティブ博覧会でアール・デコに魅せられ、帰国後博覧会で活躍したフランス人デザイナー、アンリ・ラパンに自邸の設計を依頼しました。1933年に完成した旧朝香宮邸は、日本に現存する代表的なアール・デコ建築であり、内装の素材や家具類もフランス直輸入のものが用いられています。
旧朝香宮邸は、朝香宮家が皇室離脱した1947年から政府が借り受け、1954年までは吉田茂外相・首相公邸として、その後は国賓の迎賓館として使用されました。1983年(昭和58年)から東京都庭園美術館として一般公開されるようになり、2015年(平成27年)には重要文化財に指定されました。
外観
鉄筋コンクリート造モルタル塗り仕上げの外観は、モダンでシンプルです。定規とコンパスでデザインできそうな形状は、まさにアール・デコです。

敷地は広く、立派な石柱の門から庭園の脇を通って旧朝香宮邸本館に辿り着きます。本館の奥には新館が増築されていて、美術館としての機能を補完しています。庭園は芝庭、西洋庭園、日本庭園の3形態で構成されていて、庭園のみだと200円で入場することが出来ます。

平面図、内部意匠
旧朝香宮邸の特徴は、その内装にアンリ・ラパンという当時のフランスのデザインの大御所が関与し、フランスで造られたインテリアを直輸入している点にあります。つまり、その当時のフランスのインテリア・デザインの集大成が凝縮されていると言っても良いでしょう。

アール・デコ建築の魅力は、建物の外観だけでなく、内装や置かれている家具を含めてデザインされ、空間が作り上げられているところにあります。

建物正面玄関のガラスレリーフ扉は、フランスのガラス工芸家ルネ・ラリックが朝香宮邸のためにデザインしたものです。翼を広げる女性像は、型押しガラス製法で作られています。

ヴァン・クリーフ&アーペル
ヴァン・クリーフ&アーペルはフランスの宝飾品メーカーで、世界5大ジュエラーのひとつです。1950年代から1960年代にかけては、王室関係者や著名人のための高価な一点ものに注力しており、展示されている当時の作品の輝きを間近に見ると、宝石の虜になってしまう女性の気持ちもわかります。

まとめ
東京都庭園美術館には以前も行ったことがあるのですが、アール・デコ・デザインの建物の内部空間と、そこに展示されるアール・デコを代表するハイジュエリーの組み合わせは、予想以上に面白く興味を引くものでした。朝香宮邸そのものの魅力も再認識しましたので、また機会を見つけて訪れてみようと思います。きれいに整備された庭園もありますし、素敵なレストランもあります。車で行くと警備員の指示に従って門から入り、敷地内通路を通って建物裏の駐車場に止めることが出来ます。ちょっとした特別感があっておすすめです。