関西万博の「シャインハット」を設計した伊東豊雄氏の近著を読んで

関西万博シャインハット外観 趣味
関西万博「シャインハット」

EXPO 2025 大阪・関西万博の大ホール「シャインハット」は、世界的建築家の伊東豊雄氏が基本設計を担当しました。伊東氏は万博のテーマ「いのち輝く」を「人間の生命力」「血のようなもの」「大地から滲み出るもの」と考え、1970年の大阪万博の「太陽の塔」をイメージしつつ、外観をデザインしました。また、原案の「内装」は真紅の布で覆う「血のイメージ」でしたが、協会から「プロジェクションマッピングをやるので白に変えてほしい」と言われ、内装が「白に変更」されてしまったオチがついています。

伊東氏の近著 「誰のために 何のために 建築をつくるのか」によると、建築の目的は「美しい建築」「コミュニティの回復」だと言います。繊細な美しさよりも埴輪や縄文土器に見られるような力強い美しさを指向し、機能別に部屋を区切らず自由に伸び伸びと利用する建築で、コミュニティを回復します。

ところで、「現代の建築」は技術の発展とともに合理性機能性が進み、建物は便利で快適なものになっています。制御された空調や均質な照明などの「人工環境」が、高気密な空間に効率よく供給されています。経済的な合理性に基づき大量かつ効率よく建てられた建物は、メンテナンスのしやすさと適切な施設管理で、整然と都市を構成しています。再開発の名のもとに林立している高層ビル群の足元には、破壊された古い建物と、かつてのコミュニティの残像が見えるようです。

一方、高機能化された建物や人工環境のなかで過ごしていると、「自然」とのつながりが薄くなることに気づきます。かつて筆者が高層マンションの上層階に住んでいた際には、小雨が降っていることに気づかず傘を取りに戻ることもしばしばでした。部屋の向きによっては太陽の昇り沈みもよくわからず、外で遊ぶ子供の声、地面の微かな冷たさ、の気配などを感じることが出来ません。こうした感覚から縁遠くなることは、「動物としての感受性」や「生きる力の創造力」を失うことに繋がるかもしれません。

戸建てに住んで庭木の世話をしていると、それぞれの鉢植えで四季を感じますし、夏場に水やりを怠るとすぐにしぼんで「生命の営み」を再認識します。古来より人は地面に近い場所、自然と隣り合わせで生活していましたので地面に足をつけて座ったり、外の樹木のざわめきを間近に感じてこそ人は安心し、無意識のうちに体も心も開放されていくのでしょう。

伊東氏によると、「コミュニティの回復」は決して意図的につくるものではなく、人が思い思いに自由自然と集まり、交流できる「」から生まれるとしています。たとえば屋根の下に開かれた縁側のようなスペースや、庭に出入りできる障子や戸の工夫、中央に「大きな木」が据えられた広場などでは、子どもたちが走り回り、高齢者が憩い、ふとした会話が生まれます。決して均質的で合理的で完璧なものからではなく、予測できない偶発的な出会いが生まれる場所から、コミュニティは形成されていきます。

地中から湧き出るような根源的な生命力を回復させるものや、人びとの自由な交流を育むものは、どこか素朴朴訥としたヒューマンスケールな建築なのかもしれません。建築をつくることは、人間が生きていく上で必要なことですが、自然の流れの中に「極力『』を立てない」ことが肝要なのかもしれません。

ウィキペディア 伊東豊雄

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