関門海峡の下関側に星野リゾートが「海峡を楽しむ滞在型ホテル」をオープンしました。すでにいくつかある「海峡を眺めるホテル」の紹介と、商店街の片隅にひっそりと佇む「港町の歴史を感じる居酒屋」を紹介します。
関門海峡の魅力
本州と九州の間、わずか数百メートルの幅で激しい潮が行き交う関門海峡。古くから海上交通の要所として栄え、幾多の歴史ドラマの舞台にもなってきたこの海峡では、その細い水路をコンテナ船やフェリーが、ごく当たり前のような顔で行き交っていきます。見上げると吊り橋の関門橋がその優美な姿で本州と九州を繋いでいます。下関側にも門司港側にも観光スポットが整備され、海を間近に感じて街歩きが楽しめる観光地として注目を集めています。
海峡と船
関門海峡の醍醐味は、なんといっても狭い海峡を大型船が間近に進む迫力です。両岸の距離が短いため、岸辺からでもコンテナ船や自動車運搬船などの大型船、フェリー、タグボートなどがまさに目の前を行き交います。船は遠くの景色ではなく、手の届きそうな巨大な塊として迫ってきます。それぞれの船はどこからきて、どこに向かうのか。積み荷は何なのか、なぜいま汽笛を鳴らしたのか、などと想像していると、眺めていて飽きることはありません。
渡し船
関門海峡のもうひとつの魅力が、海を渡ることの気軽さです。本州側の下関と九州側の門司港を結ぶ渡し船が運航しており、10分足らずの船旅で対岸へ渡ることができます。結構なスピードで進みますので、波しぶきを間近に感じながら海峡を横切る体験は、移動でありながらそれ自体がひとつのアトラクションのようです。20分間隔で運行されていますし、片道400円という手軽さもあり、下関側と門司港を気分転換のように「渡り歩き」できるのも関門海峡の魅力です。

門司港側と下関側の人気スポット
九州側の門司港エリアは、「門司港レトロ」と呼ばれる観光地区として知られています。明治・大正期に国際貿易港として栄えた門司港は、当時のモダンな洋風建築がいまも数多く残ります。赤レンガ造りの旧門司税関、塔屋が印象的な旧大阪商船ビル、ネオ・ルネサンス様式の門司港駅など、歴史ある建物が美しく保存・活用されています。
対岸の下関側では、「唐戸市場」とその周辺エリアが観光の中心です。唐戸市場は地元のプロの料理人から市民までが通う卸売市場でありながら、一般客向けの「食べ歩きスポット」としても解放されています。市場内の店では新鮮な魚の刺身や寿司、海鮮丼、ふぐ料理などが小分けされて販売されており、外のベンチや芝生で、行き交う船を見ながら食べることもできます。海のすぐそばの市場で、朝採れの魚を頬張る、まさに海峡ならではの贅沢な体験です。
滞在型リゾート~星野リゾートの進出~
星野リゾート
関門海峡の魅力を再発見する存在として、2025年(令和7年)星野リゾートの新しいホテルの開業が話題となっています。下関側の海峡を望む絶好のロケーションに建つホテルは、客室やラウンジから大型船の往来や関門橋の姿を一望でき、「滞在そのものが関門海峡を鑑賞する時間」になるような設計がなされています。観光スポットを駆け足で巡るだけではなく、海峡を眺めながらゆったりとした時間を過ごす「滞在型の旅」の提案です。

下関グランドホテル
同じ下関側には、50年以上の歴史を誇る下関グランドホテルが、渡し船の桟橋のすぐ目の前にあります。1970年(昭和45年)に下関財界の名士が結集し、ホテル・オフィスからなる複合ビルとして開業しました。1994年(平成6年)には全館ホテルとしてリニューアルされ、天皇・皇后両陛下をはじめとする皇族の方々も宿泊されています。
海峡脇のホテルに宿泊すると、朝、カーテンを開けたらすでに何隻もの船が海峡を行き交っています。夕暮れ時には、空の色と海面の反射光が少しずつ変化し、そのあいだを切り裂くように船が通り過ぎていきます。部屋に居ながらにして「巨大な動く風景画」を眺めているような時が流れます。

プレミアホテル門司港
1995年(平成7年)に「門司港レトロ地区」の整備が完了したのち、海峡に面した中心地区に1999年(平成11年)「プレミアホテル門司港」がオープンしました。建築界の巨匠、イタリア人建築家アルド・ロッシの設計による「サメを模した外観」が特徴的なホテルです。門司港レトロ地区の散策はもとより、海峡や船溜まり、歩行者用の跳ね橋など、周辺には観光のための仕掛けが満載です。
プレミアクラス以上の部屋に宿泊すると、専用のクラブラウンジを利用することが出来ます。そこではドリンクと軽食がフリーで振舞われます。昼間はグラスを片手に行き交う船を眺め、夜になれば光に輝く対岸の街並みと、行き交う船の航行灯がつくり出す光の帯が、港町らしいロマンチックな夜景を生み出します。

寂れた商店街の居酒屋たち
関門海峡を挟んで向かい合う門司港と下関・唐戸地区。そのどちらの町にも、かつては人であふれていたであろう商店街があります。観光地として整備された「門司港レトロ」や、人で賑わう「唐戸市場」の表側から、ほんの少し路地を入り商店街側に回り込と、時間の速度がガクンと落ちたように感じます。ここでは「今」をかろうじて生きている「昔」に出会うことが出来ます。
かざぐるま
門司港の商店街から路地を入ったところに小料理屋「かざぐるま」があります。和服をきちっと着こなしたキリっとした女将さんが、淡々と刺身や小鉢を並べてくれます。女将さんの口からぽつぽつと、この町の「かつて」の話がこぼれ始めます。隣の常連さんは「水先案内人」のお仕事をしているそうで、今でもこの町は海峡から離れることは出来ないのかもしれません。

たまき
下関・唐戸市場の賑わいから少し離れて商店街に入ると、唐戸の町も時間をゆっくりと溜め込んでいます。開いている店もありますが、シャッターの並びが目立ちます。その中で、「たまき」には大きな暖簾が掛かっていました。カウンターに座って飲んでいると、大将が「何しに、こんなとこまできたの?」と声をかけてきます。「海峡の船を見に来ました」と答えると、「ほー、珍しいね。」と笑います。関門海峡は、誰にとっても「当たり前にそこにあるもの」なのでしょう。毎日この海峡を見ている人にとって、「海峡をわざわざ見に来る」という行為は、少し不思議なことなのかもしれません。
紹介記事:しものせきFUN HP
まとめ
海峡は、「人」と「物」と「時間」が行き来する通り道なのでしょう。多くの船乗りや商人がこの海峡を通り、港に滞在し、酒を飲み、また次の土地へ出立していくのでしょう。商店街のシャッターが増えていますが「かざぐるま」や「たまき」のような店は、しっかりと暖簾を守っています。この町の「昔」と「今」は、完全には断ち切られていないようです。店で知り合った見知らぬ客と、他愛もない会話を交わす中で、少しだけこの町の時間の連なりに、参加させてもらった気持ちになりました。
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関門海峡、門司港、下関に関する別記事があります。ご興味のある方はお立ち寄りください。

