弁天山美家古寿司は、江戸前寿司の始祖華屋与兵衛の流れをくむ「千住みやこ寿司」で修業をした初代が、1866年(慶應2年)浅草金龍山浅草寺の近くで「弁天山みやこ寿司」を開店し、以来この地で営業を継続しています。江戸前寿司にこだわるこのお店について紹介いたしましょう。
弁天山美家古寿司のこだわり
弁天山美家古寿司は、酢飯、手を加えたすしタネ、新鮮な山葵、煮切り醤油にこだわっています。煮切り醤油とは醤油、水、酒、みりん、だしを加えて煮切って作る醤油で、寿司ネタにハケで塗って提供されます。手を加えたすしタネとは「煮る」「炙る」「焼く」ことや、煮汁と醤油と砂糖を煮詰めてつくる「ツメ」と呼ばれる甘辛いタレをハケで塗って提供したり、「ヅケ」と呼ばれる醤油ベースのタレに漬け込んだり、「酢〆・昆布〆」を行うことで、古典的な技法でより一層美味しい江戸前寿司を提供します。
店舗外観と店内
現在は、6階建てのビルになっていました。調剤薬局と間口を分け合った区分所有ビルとして建設されたのでしょうか。2階の階高が高いのでおそらく店舗仕様で、3階から上は住居仕様になっているのだと思われます。お店に行った時も「2階からシャリ持ってきて」と言っていましたので2階は厨房として使っているのでしょう。
ご覧のように間口は2間しかありませんので、入って左すぐにカウンター6席と奥にテーブル4人掛けが2つと2人掛け1つのこじんまりとしたお店です。カウンターで話をしていたら、ほぼ全員に丸聞こえになる親密さです。
下の写真は弁天山美家古寿司さんのHPから転載させていただきました。間口2間ですので当時からこの地で営業を継続されていることが窺えます。
弁天山美家古寿司HP リンク
ランチを頂きました
ランチタイムにお邪魔して、お任せ10貫とおつまみ3品というのをお願いしました。おつまみは、マグロと自家製海苔の佃煮を和えたもの、平貝の醤油焼きを海苔で挟んだもの、マグロとイカのヌタの3品でした。それぞれ手間がかかった品で、山椒や辛子など好みで付けられる薬味も添えられています。
にぎりは全て煮切り醤油やツメが付けられて提供されます。印象に残ったのが予想以上に柔らかいタイ、軽く昆布〆されています。穴子の焼き加減も絶妙でパリッとした食感、ツメの旨味も絶妙でした。北寄貝は新鮮で、口の中に海の旨味が広がる感じです。あとはシンコと才巻海老です。シンコはわりと大きくなっていて、2枚で1貫です。才巻海老は車海老の小さいものですが「おぼろ」が入っていました。そもそも「おぼろ」とは、酢の酸味を和らげる効果と魚の旨みを補う役割があり、その作り方は芝海老をすり身にして調味料を加えて丁寧に煎り上げて作ります。
俳優の中尾彬さんが常連のようです
俳優の中尾彬さんと池波志乃さんのご夫婦が御贔屓にされているようです。中尾彬さんは武蔵野美術大学油絵学科を卒業、フランスに絵画留学の経験もある本格派です。いくつかの暖簾が弁天山美家古寿司に寄贈されているようですし、現在のハウスカードの店名文字は「akira」の署名があります、中尾さんの手によるもののようですね。
おまけ
六代目は英語が堪能
お店は5代目の大将と6代目のお二人でお寿司を提供し、5代目の娘さんである女将がホールを担当されています。場所柄外国の方々も多いようで、この日も二組の外国人が入れ替わりに入店しましたし、6人組は人数が多くて入れず断念していました。これらのやり取りは全て6代目が英語で行っています。浅草には英語が必要なんですね。
「美味しんぼ」にも登場
グルメ漫画の草分けともいえる「美味しんぼ」の原作者雁屋哲氏が、弁天山美家古寿司の大ファンだということで、5代目の大将の内田正さんが漫画に登場しているそうです。雁屋氏はオーストラリア在住で、日本に帰国した際は「成田空港から弁天山美家古寿司に直行する」という話もあります。
江戸前寿司の別記事があります。ご興味のある方はお立ち寄りください。