「ソメイヨシノ」の寿命ー桜の名所はどうなる?

ソメイヨシノ 趣味

ソメイヨシノ」は、春の訪れを告げる日本の象徴的な桜です。しかし近年、街路樹や公園で枯れていく姿が目立つようになりました。この現象は、生物学的な寿命によるものなのでしょうか、それとも気候変動人間社会との関わりによるものなのでしょうか。

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「ソメイヨシノ」の寿命

「ソメイヨシノ」は「寿命60年説」が広く知られています。「ソメイヨシノ」は江戸時代後期に誕生した園芸品種で、すべてが1本の原木から接ぎ木挿し木で増やしてきたクローンです。そのため全国に植えられた個体はすべて同じ遺伝子を持つことになりますが、同一の遺伝子の集団は環境変化に弱いため、病気や幹・根の腐朽になりやすい性質を持っています。また、戦後から東京オリンピックにかけて全国に大量植樹されたため、多くの木の老齢化が一気に進み衰弱や枯死が目立つようになっています。

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環境要因による枯死

また、病害虫の被害や、地球温暖化や大雨などの異常気象による影響を受けているほか、人間が生み出す環境の悪化も枯死の要因の一つとなっています。例えば、道路舗装は土壌を圧縮し「根」を窒息させますし、車の排気ガスは光合成を阻害します。工事の掘削や振動で細根が切断されることもあり、「人間活動によるストレス」が老木の衰弱を加速させています。

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「寿命60年説」の克服

「ソメイヨシノ」の「寿命60年説」は、戦後復興期に全国で一斉に植樹されたことから生まれていますが、適切な管理によって寿命は克服されています。青森・弘前公園では樹齢100年を超える個体が300本以上存在していますし、東京・千鳥ヶ淵では適切な施肥間隔管理を行ったことで、老木が健やかに花を咲かせるよう復活しました。東京・小金井公園では、ドローンで樹冠を撮影しAIが健康状態を診断し、個別の栄養剤投与を行った結果、樹齢70年を超える桜の開花率が15%向上したといいます。東京・目黒川の桜並木では、地下に通気性の高い特殊土壌を投入し、根の呼吸を確保する試みが成功しています。重要なのは「生物学的寿命」ではなく、人間の適切な管理により延ばすことが出来る「社会的寿命」に着目し、行動に移すことでしょう。

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再生への道——多様性への回帰

ソメイヨシノ」は、「エドヒガンザクラ」と「オオシマザクラ」を交雑して誕生した園芸品種です。寿命は60年から100年とされ、桜のなかでも比較的短いほうですが、ほかの桜と比べて成長スピードが早いこともあり、多く植えられてきました。「ソメイヨシノ」の寿命問題は、生物多様性の重要さについて問題提起しているのかもしれません。つまり、同一の遺伝子を持つ「ソメイヨシノ」を一時期に、大量植樹したことが、現在の「ソメイヨシノ」大量枯れ死の状況を引き起こしています。山梨県富士吉田市では「ソメイヨシノ」の代わりに「ヤマザクラ(寿命200~300年)」や「オオシマザクラ(寿命60年~100年)」を植樹し、遺伝的に多様な集団を作ることで、病害リスクを分散させる試みを始めています。福島県・三春の「エドヒガンザクラ」(三春滝桜、樹齢1000年超)は、千年にわたり毎年力強く花を咲かせていますが、これも地元住民が桜のために農地を調整し、桜が根を張る範囲の土地を確保し続けてきたことによるとされています。

江戸時代に創られた園芸種「ソメイヨシノ」の「人工美」の下で「杯を交わす文化」と、山奥で数百年間ひっそりと咲く「ヤマザクラ」の「自然美」。この両極の間で、日本人はこれからもと共に歳月を重ねていくのでしょう。「ソメイヨシノ寿命」は終わりの物語ではなく、新たな共生の始まりを告げる「気づき」のような気がします。