華屋与兵衛を始祖とする江戸前寿司の源流に連なる店として、最古の歴史を誇る吉野鮨は、1879年(明治12年)に屋台からスタートしました。日本橋高島屋の裏通りの繁華街にある店舗は、鉄筋コンクリート造5階建のビルになっていますが、寿司は江戸前の仕事を守っています。
吉野鮨外観
鉄筋コンクリート造5階建、店舗は1、2階で3階以上は住居として使用しているようです。日本橋高島屋裏通りの繁華街にあり、街並みに溶け込んだ自然な佇まいです。
内照式の袖看板ですので、とても遠くからも見えます。これなら迷わずに、お店に着くことができそうです。
何故か建物壁面に英語の壁付サインがありました。土地柄外国人の方も多いのでしょうか。それとも店主がハイカラを気取って、デザインしたのかもしれませんね。
吉野鮨内部
1階はカウンターのほか、4人掛のテーブルが3卓、小上がりは掘りごたつ式の4人掛が2卓あり、席数は多い方です。2階は3部屋で合計20名程度が入るそうで、人数に合わせて利用できます。最近は畳に座る方式だと不便を感じる人が多いため、すべての席をいす式に改修しました。
地元の常連のお客さんやサラリーマンの方々が、気楽に使っている雰囲気です。いわゆる老舗感的なものは比較的薄い方だと思います。
江戸前寿司の仕事
刺し身をお任せでお願いしたところ、白身はマコカレイ、マグロは赤身と中トロの二種、それとタコでした。吉野鮨はトロ握り発祥の店とも言われています。さすがに江戸前の源流のなかでも最古のお店ですね。
握りでいくつかお願いした中で、特に美味しかったのは穴子です。強火で炙っているのですが、その食感と温かさがとてもいい。イカは旬の白イカで、これもまた甘くておいしたったです。
ほかにも美味しいものありますか?とお尋ねして注文したのが、煮ハマグリと新子(シンコ)。どちらも江戸前仕事の握りです。煮ハマグリは、旨みが煮ることによって凝縮され、噛めば噛むほど旨みが出てきます。飲み込んでしまうのがもったいないと感じるほど、美味しかったです。新子は旬のわずかな期間しか出回らない貴重品です。時期が早すぎると仕入れ値が張るということで、たまたま訪問した日から、仕入れはじめたそうで、運よく新子に巡り合えました。写真の新子は3尾で握っていますがすぐ大きくなって2尾で握るようになって、その後コハダに成長するそうです。わずか3週間くらいが、新子の旬だといわれています。
新子には煮切醤油が付けて提供されていますが、江戸前寿司ではほどんどの握りに煮切醤油が付けられているようです。煮切醤油とは醤油に酒とみりん、出汁を加えて煮ることによって作ります。塩分が薄く優しい旨みの煮切醤油は、江戸前寿司には欠かせません。
まとめ
建物はビルとなり、地域に溶け込んだ気取らない雰囲気ですが、江戸前寿司の仕事は丁寧に伝統を守っています。
江戸前寿司の仕事といわれる「〆る」「煮る」「炙る」などは、そもそも保存技術の発達していなかった時代の要請によるものでしたが、現在の吉野鮨五代目の店主は「素材の味を良くするため」に積極的に活用しているとのことです。
江戸前寿司の始祖華屋与兵衛の流れを汲む中で、最も古い歴史を持つ「吉野鮨」に一度訪れてみてはいかがでしょう。
江戸前寿司の伝統を守るお店の別記事があります。ご興味のある方はお立ち寄りください。