「臨江閣」は、前橋に県庁が移った象徴。楫取元彦と前橋二十五人衆

臨江閣 庭園越し遠景 歴史建築

前橋公園の中にある臨江閣は明治時代に作られた和風迎賓館で、地元有志の寄付で造られた本館と当時の県令県職員からの寄付による茶室、全国県令の会合のために作られた貴賓館である別館で構成されています。高崎から前橋に県都が移った経緯や、それを支えた前橋二十五人衆について、さらには臨江閣の建物自体についても紹介したいと思います。

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県都がわずか5年で、高崎から前橋へ移転

県令、楫取素彦(かとりもとひこ)と前橋二十五人衆

もともとは熊谷県と称されていたこの土地は、養蚕製紙業さらには狭山茶などの産業が盛んで当時の日本経済を支える屋台骨ともいえる存在でした。1976年(明治9年)に熊谷県は群馬県埼玉県に分割され、群馬県の県庁は高崎に置くこととされました。県令の楫取元彦は高崎市民に協力を求めましたが叶わず、県政の先行きに悩み苦しんでいたところ、前橋下村善太郎をはじめとする前橋二十五人衆が私財を供出し、師範学校衛生局の建設などに協力する姿勢を示したため、1884年(明治14年)県庁前橋移転することとなりました。

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臨江閣

本館

県庁が前橋に移転した3年後の1887年(明治17年)県令楫取素彦の提言に応じた前橋二十五人衆地元企業などの寄付により迎賓館が建設されました。利根川の流れに面することから「臨江閣」と名付けられ、1896年(明治26年)の明治天皇の行幸の際に使用され、1905年(明治35年)と1911年(明治41年)には大正天皇(当時は皇太子)がご滞在されました。

外観

木造2階建て、入母屋造りの重厚感のある外観です。車寄せの瓦屋根も大きく、包容力のある曲線を描いています。

臨江閣 本館 外観
臨江閣本館 正面

利根川を望む方向には、1,2階とも縁側が設けられており、まさに川の眺望を楽しむ臨江閣として、お客様を接待したことと思われます。もっとも、外周のガラス戸は後から付けられたもので、当時は雨戸であったと考えられています。

臨江閣 本館 外観
臨江閣本館 外観

内部

眺望のある縁側に沿って部屋が一列に並ぶシンプルな造りです。1階の「一の間」の畳をはずすと能舞台として使える仕様となっています。1階廊下の外にはみ出した留守居室部分などの付属屋はのちに増築された部分です。

臨江閣 本館 配置図
臨江閣本館 配置図

左の写真は天皇陛下のご在所となった、2階の「一の間」です。数寄屋風の和風建築となっています。右の写真は2階の縁側部分です。天井は軒裏部分の構造材が直角に交わる小舞天井で、軽快な印象です。

茶室

臨江閣本館の建設が地元有志の協力によることに感動した県令楫取素彦は、自身と県庁職員の募金により、茶室を建設し寄贈しました。わびさびに徹した草庵茶室となっています。

前橋二十五人衆はもとより、県令楫取素彦と県庁職員達もお金使い方が潔くてカッコいいですね。

臨江閣 茶室 外観
臨江閣茶室 出典:パンフレット

別館

1913年(明治43年)に開催された全国知事の会合のための、貴賓館として建設されました。1階には板床西洋間1室と和室7室があり、2階は180畳大広間1室の構成です。

外観

木造2階建て、入母屋造りの迫力ある外観です。2階の壁は下見板張りが付き、その上に白漆喰小壁となるのは、2階が大広間で階高が高いことからくる意匠でしょう。

臨江閣 別館 外観
臨江閣別館正面

1,2階とも四方をぐるりと縁側が回っており、どこからでも周りの眺望を楽しめるとともに、1階縁側は渡り廊下で本館とつながっています。

臨江閣 別館 外観
臨江閣別館 外観

内部

玄関を入ると右手に大きな板床西洋間があり、その先の渡り廊下本館とつながっています。玄関左手の手前には和室が3室あり、中廊下を挟んで少し大きめの和室が2室あります。いずれも縁側に沿って一列に並び周りの眺望を楽しむ配置となっています。

臨江閣 別館 配置図
臨江閣別館 配置図

写真左は玄関入ってすぐの列の和室で、右の写真が奥の列の和室です。右の写真の方が床框の仕様が凝っていることや天井サイズが大きく、かつ隙間をあけて貼る敷目天井となっていること、明り取りの平書院がついていることなどから、より高級仕様となっています。

180畳大広間です。端正な造りに、深い格天井の陰影のリズムが美しいです。部屋の大きさに負けない床の間書院造りですが、その大きさ故に掛ける掛け軸も特注のものが必要となるようです。

臨江閣 別館 内観 大広間
大広間 書院造り 高い格天井

写真から複製した照明器具、2階の縁側小舞天井、大広間床の間のクローズアップです。

張弦梁

180畳の大空間を柱がなく支えるために、張弦梁という工法が採用されています。長い床梁の両側に鉄筋を沿わせ、床の荷重によって下に湾曲しようとする力に対し鉄筋が引っ張り合う力によって梁を支えています。明治時代の建物に採用されるのは、非常に珍しい工法です。

庭園

臨江閣の庭園は、池を中心にして周りを遊路で囲んだ「池泉(ちせん)回遊式庭園」です。すこし起伏があるので高いところから池を眺めたり、所々の東屋で水のせせらぎを聴いたり、吹く風に身を任せることもできます。

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おまけ

群馬県庁

前橋駅からバスで臨江閣に向かう途中に群馬県庁があります。1999年(平成11年)に完成した地上33階、地下3階、高さ153.80m、延べ床面積83,503㎡の立派な建物です。隣には同時に完成した議会棟、足元には昭和初期の旧庁舎もあります。

群馬県庁
群馬県庁 足元は旧県庁建屋、昭和棟

競輪おばあちゃん

前橋駅からバスで臨江閣に行くには、前橋公園バス停で降りて公園内を臨江閣に向かいます。帰りも同じバス停で待っていると、向かいには「日本トーターグリーンドーム前橋」という大きな施設があります。

何だろうと思っていると、おばあさんが出てきたので「これなんですか?」と尋ねたところ、「競輪場外だけどね」と。「家にいてもだから」「中は涼しいし、お茶もただなのよ」「朝はに送ってもらったけど、帰りは歯医者だからバスで帰ってきてと言われたの」「数字を見てるとボケ防止にいいのよ」とそこそこ予想をしている感じです。「買ってないけどね」とは言ってましたけど、結構な頻度で通っているみたいです。積極的に外に出て刺激を受けるのはいいことですよね。「家にいると昼寝しちゃって、夜寝れなくなっちゃうのよ」「草むしりしても30分で終わっちゃうし」と競輪場に通うおばあちゃんはとても元気でした。最後は前橋駅で「バスは前ドアから降りるのよ」と親切に教えてくれました。短い交流でしたけど楽しかったです。

日本トーターグリーンドーム 外観
出典:日本トーターグリーンドームHP

前橋まるごとガイド 臨江閣リンク

日本トーターグリーンドームHP リンク

バス停で出会った「競輪おばあちゃん」のエッセイがあります。ご興味のある方はお立ち寄りください。