福岡市の中心街である天神と中洲の間に、「辰野金吾」設計の「赤煉瓦文化館」(旧日本生命九州支店)と、瀟洒な外装と凝った内装の「旧福岡県公会堂貴賓館」が近代建築遺産として保存されています。
赤煉瓦文化館とは

「赤煉瓦文化館」は、1909年(明治42年)に日本生命九州支店として、辰野金吾の設計により建設されました。建築面積282㎡の小規模な建物ながら尖塔やドームを持つ変化に富んだ形状です。赤煉瓦に白い花崗岩の帯が入る辰野式デザインの外壁です。
1969年(昭和44年)に重要文化財に指定されたことを契機として市に譲渡され、1990年(平成2年)まで市の歴史資料館として使用されていました。1994年(平成6年)に建築当時の内装に復元し、福岡市赤煉瓦文化館としてリニューアルオープンしています。
建物入口と内観
アーチ型の入り口は白い花崗岩の石柱と小屋根で立体的にデザインされ、白い帯状の花崗岩が細部にわたって精緻に組み込まれています。圧倒的な存在感がある美しいエントランスです。
内装は豪華さを競わず、吹抜けの階段室もすっきりと美しく、アールヌーボーの階段の手摺子の柔らかなデザインも洗練されています。奥に見える螺旋階段は八角ドームの塔屋に続く階段です。


貸し会議室
2階には市民が有料で使うことができる貸し会議室が大小3つあります。共用部や使用していないときの会議室の内観見学は自由です。


エンジニアリング・カフェ
1階にはカフェがあります。福岡市はエンジニアが集まり・活躍し・成長する町を目指す「エンジニアリング・フレンドリー・シティ」を標榜していて、その活動の一環として2019年(令和元年)からエンジニアリングカフェがオープンしています。常駐スタッフがエンジニアやエンジニアを目指す人からの相談に対応するほか、エンジニアのコミュニティが開催する各種セミナーや交流会のサポートを行っています。


旧福岡県公会堂 貴賓館とは
「福岡県公会堂貴賓館」は、1910年(明治43年)に九州沖縄八県の連合会が福岡で開催されるに際し、来賓接待用の施設として建設されました。設計と工事監理は福岡県の土木技師の三條榮三郎氏の手に因ります。連合会終了後は県の公会堂として利用され、戦後は福岡高等裁判所・県立水産学校・県教育庁舎などとして利用されましたが、1981年(昭和56年)教育庁移転に伴い解体か保存かの議論の末に保存することとなり、1984年(昭和59年)に国の重要文化財に指定されました。
フレンチ・ルネッサンス様式
フレンチ・ルネッサンス様式の特徴は、急勾配の屋根やドーマー窓(屋根窓)、角の円形塔を持ち、水平ラインを意識した外観を持っています。代表的な建物としては「世界遺産のシャンボール城」があります。シャンボール城は古典的なイタリアの構造に伝統的なフランス中世の様式を取り入れた、フレンチ・ルネサンス様式を代表するロワール渓谷最大の威容を誇ります。

外観
旧福岡県公会堂貴賓館は、木造2階建で北側に石柱で構成された車寄せがあります。北東隅に八角塔の尖塔、屋根は寄せ棟形式でドーマー窓が設けられています。外壁はモルタルで、胴蛇腹や軒蛇腹には石造を模すような造作が施されています。

平面図
要人を接待する機能と宿泊するための機能がコンパクトにまとめられています。建設当時は貴賓館の南側(平面図左上方向)に集会室棟も付属していましたが、重要文化財としての保存整備は貴賓館のみとなりました。


内観
なかでも貴賓室の内装は、貴賓館の中でも最も豪華なものです。八角塔の部分も部屋の一部となり、天井には空にぽっかりと浮かんだ雲が描かれています。



食堂の床は板材を斜めに交差させる綾筋貼りで、通常のヘリンボーン貼りやフレンチ・ヘリンボーン貼りに比べると板の交差部が90度よりも鋭角になっていて、すっきりとシャープな印象となっています。遊戯室の床材も同じ貼り方となっています。
貴賓館には調理する厨房施設はなく、敷地南西部に隣接して設けられた西洋料理店から飲食料理を運んでいました。
天井デザイン いろいろ
貴賓館の面白いところは部屋ごとに異なった天井デザインを採用しているところです。ひとつとして同じものはありません。共用部の天井にも同じこだわりが見受けられます。






まとめ
福岡市「赤煉瓦文化館」は、辰野金吾の代表作のひとつで、比較的小ぶりな建物ですが変化に富む外観と細部にこだわった意匠には見ごたえがあります。福岡市が建築遺産として保存するだけでなく、貸し会議室やエンジニアリングカフェとして積極的に活用していることに共感を覚えます。
「旧福岡県公会堂貴賓館」は、明治期に少なかった接待饗応施設を自前で造ってしまう気概と、おそらく潤沢ではなかった予算の中で、如何にセンス良く立派な施設に見せるかという工夫の跡を感じます。歴史建築を見学すると、建物の建築的な素晴らしさはもとより、それらが造られた時代の背景や建築主・設計者たちの想いに心を遊ばせるのも楽しみのひとつです。
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辰野金吾に関する別記事があります。ご興味のある方はお立ち寄りください。


