温泉の分析には、泉質、泉温、水素イオン濃度(ph値)、に加えて浸透圧があります。浸透圧の違いによって、温泉の水分が体内に入ってきて手がシワシワになったり、体内の水分が外に出て湯あたりを引き起こしたりします。料理においても、濃度の違いにより水分が移動することを利用して、旨みを増したり、シャキシャキ感を向上させることなどに利用しています。
温泉における浸透圧
人間の体液の塩分濃度は8,800㎎/㎏ですので、浸透圧が8,000~10,000㎎/㎏を等張泉、8,000㎎未満を低張泉、10,000㎎以上を高張泉といいます。濃度が濃いほうに水分が移動しますので低張泉の場合は温泉の水分が身体に浸透してきます。指がシワシワになるのは低張泉の特徴です。一方高張泉の場合は身体の水分が外に出ていこうとするので脱水や湯あたりを起こしやすいと言われています。
温泉の種類、浸透圧についての別記事があります。ご興味のある方はお立ち寄りください。
料理における浸透圧
素材の旨みを引き出す
料理をする際に、素材の旨みを引き出すには余分な水分を取り除き、旨みを凝縮することが大切です。フランス料理のシェフ田代和久氏によると、キャベツを茹でる際に5リットルのお湯に対して150gの塩を加えると、キャベツの旨みや甘み、香りが引き出されるといいます。塩を加えたお湯の方が濃度が高くなったため、キャベツ内部の水分が外に出て、キャベツ内部の旨みが凝縮されるんですね。
素材に直接塩をふって出てきた水分をペーパーでふき取る方法や、魚や肉の食品用脱水シート(業務用) などを利用する方法もあります。
素材のシャキシャキ感を増す
料理をする方はご存じだと思いますが、キャベツの千切りを水に浸しておくとシャキシャキ感が向上します。これも浸透圧の関係でキャベツ内部の濃度の方が高いので、水がキャベツ内部に浸透し、みずみずしく、シャキシャキになります。
反対に、千切りのキャベツを塩揉みすると、水分が抜けてシンナリとなるのも浸透圧の関係です。シャキシャキ、シンナリどちらも美味しいですけどね。
野菜栽培の浸透圧
千葉県九十九里の「九十九里 海っ子ねぎ」は、海水を使った浸透圧により栽培したブランドねぎです。
「九十九里 海っ子ねぎ」の誕生
2002年(平成14年)千葉県の西を通過した台風21号の影響で、大量の海水を含んだ潮風が九十九里の野菜どころにひどい塩害を与えました。多くの農作物が枯れてしまう中、ネギだけは被害がないうえに、いつもよりおいしいネギに仕上がっていたのです。その後JAと山武農業事務所が調査・試験を重ね、2006年(平成18年)に海水をかけて栽培する長ネギ「九十九里海っ子ねぎ」を商品化しました。
「九十九里 海っ子ねぎ」美味しさの秘密
「九十九里 海っ子ねぎ」は、太くて甘く、柔らかで糖度はイチゴ並みの12度(一般ねぎは9度)です。海水に含まれるミネラルによるものだという解説もありますが、やはり海水を掛けたことによる浸透圧で余分な水分が抜けて糖度が高くなっていると思われます。また海水で水分が取られて枯れる危険を避けるために、光合成を活発にして成長を促進し糖度を蓄えているとも考えられます。
「九十九里海っ子ねぎ」の生産者は14名で栽培のルールは厳しく、栽培に使用する海水は必ず水質調査を実施しJAの管理下で生産者全員が同じ海水を使用するほか、減農薬栽培もおこなっています。ブランドねぎとして徹底した品質管理を行っています。
医療における浸透圧
人間の体液を基準にして、等張性、高張性、低張性と分類しているんですから、当然医療分野においても浸透圧が登場してくることは予想されます。とは言え筆者は医療関係の専門家ではないので、簡単に輸液における浸透圧別の種類についてのみ紹介いたします。詳細については医療関係者のレポートをご参照ください。
浸透圧による輸液の分類
輸液(血管より輸液剤を点滴すること)剤の種類について、以下に紹介がありましたので転載します。
アルメディアWEB HP 「ナースが知っておきたい栄養の基本と栄養サポートの進め方」
低張液 | ・蒸留水 など | ・体液よりも浸透圧が低い ・溶血(赤血球が破壊)が生じるため、 単独の静脈内輸液は禁忌 |
等張液 | ・生理食塩水(0.9%塩化ナトリウム液) ・5%ブドウ糖液 など | ・体液と浸透圧が等しい ・細胞外液の補正には生理食塩水、 細胞外液と細胞内液双方の補正には 5%ブドウ糖液が有効 |
高張液 | ・10%塩化ナトリウム液 など | ・体液よりも浸透圧が高い ・急速投与により、細胞内脱水を生じる リスクがある |
医学の門外漢ですが輸液剤の浸透圧だけに着目すると、低張液だと赤血球に蒸留水が侵入して壊れてしまうのだろう、高張液だと細胞から体液が出て行ってしまうのだろう、ということは想像できます。
まとめ
温泉で初めて出会った「浸透圧」ですが、さまざまな場面でその仕組みが活用される、とても大事な理論であることが解りました。濃度を同じにするように水分が移動するということですね。様々な事象をこの知識で説明できそうです。