ニューヨークの旅~③メトロポリタン美術館に見るアメリカの寄付文化

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メトロポリタン美術館 旅行
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メトロポリタン美術館「メト」

ニューヨークのメトロポリタン美術館「The MET(メト)」は、アメリカに国際的規模の美術館がないことを憂いた市民有志の発案により、1870年に民間施設として数点の作品展示から始まりました。その後、アメリカの経済発展に伴い、指折りの資産家たちの莫大な寄付や寄贈によって、200万点もの膨大なコレクションを有する「世界三大美術館」のひとつとなりました。

「メト」は、マンハッタンのセントラルパークの中央付近の東端に位置しています。セントラルパークは南北4 km×東西0.8 km の非常に大きな都市公園で、その一角に静かに佇むように建っています。

「メト」ではエジプト美術の展示が充実しています。なかでも、デンドゥール神殿は、紀元前15年頃に造られた神殿をエジプト政府が寄贈したもので、巨大なガラス張りの建築空間に展示されています。神殿の周囲はナイル川を模した水盤で囲まれています。

メット内観、デンドゥール神殿
デンドゥール神殿

「メト」では、フェルメールやルノワール、ゴッホなど、19世紀や20世紀のヨーロッパ絵画が充実しています。なかでも、モネの「ルーアン大聖堂」は連作の作品で、季節と時間を変えて同じアングルで描くことで、光の推移による表情の変化を捉えようと試みた作品です。同一のモティーフの作品は全世界に30点以上あるとされ、そのうちの1枚が「メト」にあります。

モネの「ルーアン大聖堂」
モネの「ルーアン大聖堂」

「メト」の収蔵品は、古代エジプトからヨーロッパ、イスラム、美術工芸、アジア、アフリカ、現代美術まで、ほぼ全世界の文化を俯瞰できる「百科事典的美術館」的な構成になっています。館内も広いため、少なくとも3時間あるいはそれ以上の鑑賞時間が必要になると言われています。展示内容の詳細については、以下の「メトロポリタン美術館HP」をご参照ください。

メトロポリタン美術館HP

「メト」に見る、アメリカの寄付文化

アメリカでは19世紀以降、私財を社会のために使うことが文化として定着し、その中核に美術館や博物館への寄付がありました。単発の「施し」ではなく、教育・文化・科学といった人を自立させる分野への投資を重視し、財団やトラストという仕組みにより、専門家が長期的に運営する制度としての寄付が行われます。つまり、美術館や博物館そのものが寄付で成立し、寄付で拡張されるインフラとなっています。

「メト」の収蔵品は、富豪コレクターがまとめて寄贈あるいは遺贈したコレクションと、富裕層や財団からの寄付金で購入した作品が、大きな割合を占めています。たとえばデパート王のアルトマンは、レンブラントやフェルメールを含む1000点以上の作品を遺贈しましたし、砂糖事業で巨万の富を得たハヴェマイヤー夫妻は、ドガ、モネ、マネなど印象派の作品を積極的に蒐集し、死後に遺贈しています。アメリカを代表する富豪の家系ロックフェラーは、石油業で得た富を3世代にわたり「メト」に大規模な寄付を行いました。

日本では、「公共なこと」は国や自治体の責任

日本では、博物館・美術館・福祉など「公共性の高いこと」は、国や自治体の責任という意識が強く、公的予算をつけて国や自治体による計画的購入が行われ、寄付はあくまでも補完的な位置づけです。実際、国立科学博物館が電気代のためにクラウドファンディングをした際も、新聞などの論調は「本来は国が出すべきだ」としており、「寄付より先に国家責任」という価値観があらわになっています。

また宗教的思想の影響もあるかもしれません。アメリカではプロテスタント系の伝統が強く、神への感謝、隣人愛、成功者の社会還元が、個人の寄付行為をあと押ししています。一方、日本の神道や仏教は、教義として「収入の一部を寄付せよ」と強く求めてはおらず、祭祀の賽銭やお布施など「儀礼としての支出」が中心となっています。

日本は「世界人助け指数」でワースト2位になっており、「寄付文化が根付いていない」と指摘されることもあります。その一方で、冠婚葬祭のご祝儀や町内会費、職場でのカンパなど「顔の見える相手や身近な共同体」にはお金を出す習慣はあります。つまり、お金を出す行為自体が少ないというより、NPOや財団などに継続的にお金を出すという意識が弱いようです。これは、贈与することが「関係性の維持」や「義理」の意識に基づく日本社会と、「個人の良心と信念」に基づく「寄付」が称賛されるアメリカ社会との、社会的背景の違いと言えるでしょう。

さらに日本においては、人からお金をもらうこと、施しを受けることは「恥ずかしい」という感性と結び付きやすく、寄付をお願いする側も、行う側にも心理的ハードルが高いようです。寄付を募ること自体が「情けない」「経営が失敗した証拠」などと受け取られやすく、美術館や文化施設が堂々と寄付を求めることが出来ない背景のひとつとなっているようです。

まとめ

メトロポリタン美術館は、世界中の個人や財団からの寄贈と、国際市場での購入により、「ニューヨークに集められた世界の名品」という性格です。私的な美術館でありながら寄付による財政は盤石で、今も成長を続けており、寄付のパワーの凄まじさには驚嘆を覚えます。

一方、「メト」は開館してわずか150年にすぎず、集められた美術品の多くはニューヨークとは何の関係もないことに気づきます。美術品とは歴史であり、地域で生まれ、その土地の文化を象徴するものです。例えばフランスの「ルーヴル美術館」は、フランス王室コレクションとヨーロッパ絵画・彫刻の名品、古代ギリシア・ローマ・エジプトの美術品などから構成されるフランス国立博物館で、「フランス国家の宝物庫」と称されています。

日本の美術館は寄付が少ないこともあり、運営費を公的補助と入場料で賄っています。このため財源として入場料を確保するため、借用型の展覧会「ルーヴル展」や「メトロポリタン展」など確実に集客が見込める海外ブランド展を企画することが、ビジネスモデルの柱となっています。

こうして見ると、美術館にはそれぞれの成り立ちと経緯と個性があり、「寄付」という行為が深くその運営にも影響を与えていることに気づきます。