大分・別府の鉄輪温泉は、街のあちこちから湯けむりが立ち昇り、路地沿いには小規模な湯治宿が建ち並び、レトロで情緒豊かな街並みが残る、大好きな街のひとつです。街中には住民が管理する共同浴場が点在し、100円か150円あるいは無料で旅人も利用することが出来る、湯治にはうってつけの温泉地です。数日間の湯治の旅に行ってきましたので、面白いところをいくつかご紹介します。
大黒屋
以前にも宿泊したことがある大黒屋さんが今回のお宿です。貸し間スタイルでキッチン、トイレは共同、玄関先に地獄窯と数台の屋根付きテーブルが設備されていて、常時利用可能です。1階には食事にも利用できるフリースペースが2部屋ありますので、屋内での食事も可能です。


お風呂は、家族風呂形式で空いているときに自由に使うスタイルで、もちろん源泉かけ流しの天然温泉です。源泉温度69.9℃、弱酸性ph4.2、低張性、無色、微弱酸味。カランの給湯のスイッチが浴室の照明のスイッチと共通になっているので、昼間に照明を付けずに入るとお湯が出ないことになりますのでご注意ください。

調味料や取り皿、箸のセットと、地獄窯を扱うときに使う皮手袋を貸してくれるので、自由に調理します。野菜や豚バラ、さつま揚げなどでしたら1~2分で出来上がりです。チルドの餃子も美味しくできました。屋内に共同キッチンがありますので地獄蒸し以外の料理もできますし、毎朝お宿からお味噌汁と蒸し卵がサービスで提供されます。



窓際の広縁のソファから見る景色は最高です。朝焼けや夜景はもちろんのこと、向かいの貸し間旅館で女将さんが部屋を掃除していて、窓ガラスや網戸を丁寧に・丁寧に磨き上げている様子を見るのも、気持ちの良いものでした。




共同湯
鉄輪温泉の中心街はさほど大きな規模ではなく、20分もあればひと廻りできる範囲に集まっています。その中に六つの共同湯(熱の湯、すじ湯、渋の湯、地獄原温泉、谷の湯、上人湯)があり、今回は初めて上人湯を訪れました。入口に「スタンプが必要な人は、事前に向かいの喫茶保月まで。」と貼り紙がありますので、喫茶保月のおば様に入浴料100円を払ってスタンプを押印してから入場しました。中には地元の先客がいて「ほら、あそこの喫茶店のばあ様がこっち見てるだろ。賽銭箱は空にしてあって、100円払わないで入ると怒られるんだ。」と、入浴料のチェックについて面白く教えてくれました。その方は、いつもは別の共同湯に行くのですが、上人湯は浴槽がきれいで気持ちいいので週に一度は来るとのことです。その際は、料金は賽銭箱に入れずに喫茶保月のおば様に渡してから、入ることにしているそうです。共同湯は、地元の方との会話を楽しめるのも大きな魅力のひとつです。



明礬温泉
明礬(みょうばん)温泉は、鉄輪温泉からバスで15分程度で別府八湯の中でも最も高いところにあり、江戸時代に明礬が採取されてきた山の温泉地です。当時、明礬は薬や火薬、染物、鍛冶溶接、絵画などに利用されていましたが、その後湯の花を採取するよう変遷してきました。大昔の住居のような「かやぶき小屋」が並んでいるのが湯の花小屋で、明礬温泉の特徴的景観です。




ph2.4の酸性の温泉ですので、目の粘膜が若干ヒリヒリします。淡白色で微濁している温泉は、硫化水素臭がありますので温泉らしい温泉です。源泉温度は61.5℃、低張性温泉です。

飲食店
湯治で長逗留するには自炊で食費を節約することも大事ですが、たまには気分を変えて外食を楽しみたくもなってきます。調べてみると鉄輪温泉にも素敵なお店がありますので、いくつかご紹介します。
レストラン三ツ星
31周年になるという老舗の洋食店で、本場フランスを始めヨーロッパ各地やカナダで修行してきたシェフと感じの良い奥様で切り盛りされています。本格派ながら肩肘張らないアットホームな雰囲気で、ファンの常連さんも多いようです。オムライスが手軽な人気メニューのようですが、セットメニューも豊富でバラエティに富んだ料理が楽しめます。ドレッシングやソースが素晴らしく、素材の美味しさをさらに引き立ててくれています。どの一皿にも「美味しい!」と声が出てしまうほどの満足度です。場所は、鉄輪バスセンターの目の前ですので、とても分かりやすい立地です。




街歩きで気になったお店
鉄輪の路地を歩いていると満員で賑わうお店が目に飛び込んできました。「おかみ丼々和田」というお店の店先に、このお店を紹介している「コミュニティ誌」が張り出してあります。東京築地から移ってきた「おばんざい」のお店で、カウンター7席の小さなお店は素材と出汁にこだわりがあるようです。築地時代の常連さんや、鉄輪でのコミュニティなど多くの仲間が集うお店のようで、掲示板の予定表には「貸し切り」の表示がチラホラ見られます。

駐車場の空き地に「イタリアン・Otto e Sette 」の看板がありました。その先を覗くと素敵な内装のレストランがあります。気になって調べてみますと「Otto e Sette Oita(オット・エ・セッテ 大分)」というお店で、海の幸と山の幸に恵まれた食材の宝庫大分の食文化を発信している気鋭のイタリアンだとか。シェフは、由布院の名宿などで料理長を務めた実力派らしく、鉄輪で絶品イタリアンを食べるという選択肢も良いかもしれません。歴史建築の旅館「柳屋」の敷地内にあるそうで、筆者が見たのは駐車場からの入口だったようです。和風情緒溢れるレトロな雰囲気がお洒落です。

まとめ
いつものように温泉めぐりと地獄窯での蒸し料理を堪能しましたが、今回は新たに外食も楽しみましたし、部屋の広縁からの風景を飽きずに眺める贅沢も味わいました。何もしないところから、何かが生まれるような、気づきというか創出の時間を持てたような気がします。
---------------------------
鉄輪温泉に関する別記事があります。ご興味のある方はお立ち寄りください。


