「蔵王」は大きくわけてふたつあります。ひとつは山形県側の「山形蔵王」で、もうひとつは宮城県側の「宮城蔵王」です。「蔵王」という山があるのではなくて、いくつかの山が連なる連峰のことを指しています。「山形蔵王」は冬に賑わいます。その理由はスキー場と樹氷ですが、スキー場の近くには温泉もあり、こちらも有名です。蔵王温泉といえば、山形蔵王にある温泉のことです。宮城蔵王には遠刈田温泉などがありますが、山のふもとの平地に位置しているので、蔵王連峰を遠く下から見上げることになります。

蔵王温泉
アクセス

東京から電車で向かうには、山形新幹線で山形駅まで行って、そこからバスで概ね40分です。少し東京方面に戻る位置関係となりますが、夏場でも1時間に1本程度の間隔でバスが出ていますので、山形駅まで行くのが利便が良いと思います。
山形新幹線は、東北新幹線の福島駅から山形方面に分岐し、ここからは在来線の線路を使って山形駅を経て、新庄駅まで運行されています。従来の在来線の線路軌道は1,067mm(狭軌)でしたので、新幹線の標準軌道1,435mmに線路幅を改造しました。在来線区間のトンネルや駅ホーム等の改築は不要ですが、車両本体の幅や高さはフル規格の新幹線よりひと回り(4~50㎝)小さく、座席は2席×2席の横4席となり、フル規格新幹線の横5席より少なくなっています。また、東京・福島間の新幹線ホームでは、車体幅が小さいことからホームとの隙間ができてしまうので、ステップが出てくる仕掛けとなっています。


東京駅から山形駅までは2時間45分かかります。東京・福島間は新幹線の専用軌道を時速275㎞~300㎞で走りますが、福島からは在来線区間ですので最高時速は130㎞です。それまでの在来特急の最高時速は95㎞でしたので速くはなりましたが、やはり少々時間はかかります。新幹線なのに単線で行き違いの待ち時間が出たり、防護壁もなく景色が身近で、立木の枝が窓をこすったりするのも、なんだかローカルっぽくて結構楽しめました。
山形駅からのバスの乗車時間は40分ですが、後半は山をグングン登っていきます。あっという間に平地は小さくなり、辺りは霧というか、雲の中に入ったかのような感じです。終点「蔵王温泉バスターミナル」の標高は860mでした。

温泉街マップ
蔵王温泉バスターミナルから山側に拡がる温泉街です。と言ってもさほど大きな街ではなく、バスターミナルから案内図の上の端にある「大露天風呂」まで歩いても15分程度の近さです。街の中には共同浴場3カ所と日帰り温泉施設4カ所があり(案内図中、黄色マーカー)、飲食店やコンビニ、宿泊施設が立ち並びます。

温泉の歴史と泉質
蔵王温泉は、西暦110年開湯と言われ1900年以上の歴史を持っています。5つの源泉群とそこから分かれる47の源泉があり、それぞれの源泉温度やphは少しずつ異なりますが、ph1.6前後が多く強酸性の泉質です。皮膚病に高い効能があるとされ、また肌を白くする効能から「姫の湯」の異名を持ちます。

日帰り温泉施設
観光案内所(バスターミナル内)にあった日帰り入浴施設一覧表は、費用、営業時間、施設内容が整理されていて、とても分かりやすいものでした。共同浴場は街中に、その他の施設は街周辺に立地しています。

大露天風呂
春から秋にかけては、川沿いの「蔵王温泉大露天風呂」が営業しており、蔵王温泉の夏のシンボルとなっています。かなり急な坂を登った先の駐車場から徒歩で進むと、壮大な自然の中の野趣あふれる大露天風呂が現れます。7箇所の源泉から湧出した豊富な湯量の温泉が絶えず注がれ、上の湯と下の湯に分かれた自然石を組んだ湯舟の間には、滝のように湯が落ちます。沈殿した湯花が湯に溶けて白濁した、美しいエメラルドグリーンの湯と、空を覆うかのように立ち上がる樹々、澄んだ空気と鳥のさえずり、渓流のせせらぎが、至福の時を紡ぎます。



共同湯
温泉街には地域の人たちが使う共同浴場があり、そこを訪れるのも楽しみのひとつです。温泉街のメイン通りの高湯通りに「上湯」と「下湯」が、少し路地を入ったところに「川原湯」があります。





ハンモンドホテル
「蔵王温泉をリーズナブルに、素泊まりでシンプルステイ」のキャッチコピーに惹かれて、今回宿泊しました。古い施設をリニューアルして、素泊まりに特化し、人手をかけずに経費を節減して経営再建しているようです。事業主体は「名湯一門 高見屋」と称しており、300年の歴史を持つ老舗「高見屋旅館」を源流とした十数軒の宿が、山形の名湯各地に湯宿を構えているようです。
スマホによるセルフチェックインで、部屋のキーは暗証番号方式、浴衣や必要なアメニティは1階ロビー横から自分で持ってきます。部屋にはタオル類とスリッパがあり、清潔な空間で快適に過ごせました。

風呂


共用部
このホテルは素泊まり専用ですので、共用部が充実していました。食器類や電子レンジ、給湯器などちょっとしたものなら簡単に調理できそうです。また、有料にはなりますが、キッチンと調理器具の貸し出しも行っています。

食事やカフェ、バータイムを過ごすのに適したスペースも用意されています。

卓球台やビリヤード台の用意もあります。グループで来たときは楽しそうですよね。


居酒屋
素泊まりですので、晩御飯は外食です。バスターミナルに到着して街歩きをしているときに、目星をつけておいた田舎料理の店「貴和」さんです。女将さんが料理をして、ご主人がそれを運ぶ、スタイルです。ご主人は若いころ国体のスキー選手だったとかで、現役引退後は「蔵王のPR」で全国各地を回っていたそうです。今は、ほぼ何もしていない風で、カウンターに座っています。

料理はお任せスタイルで、山形の田舎料理が次々に出てきます。それぞれ名前や内容をお聞きしたのですが、ほとんど忘れてしまいました。芋煮は美味しかったです。なんでも「特別な芋を使っている」と言っていました。料理ではないですが、写真にある「七味にんにく」が美味しくて、ネットで調べて取り寄せました。








まとめ
多くの源泉と豊富な湯量、強酸性で硫黄臭があり、沈殿する湯の花とエメラルドグリーンの湯の色ですから、「温泉の王道」とも言えるかもしれません。蔵王のシーズンは冬だそうですので、雪深い蔵王にも是非訪れてみたいものです。居酒屋「貴和」さんのかつての常連さんは、毎年冬に仲間と蔵王にきてスキーはそこそこに連日「貴和」さんで飲んでいたそうです。毎年繰り返し人を呼び込む「蔵王の魅力」と、それを迎える「地元の人たちの魅力」、さらには「時の流れ」を感じた夜でした。
