城崎温泉は兵庫県の日本海側の豊岡市に位置し、奈良時代にその起源を遡る1300年以上の歴史を有する日本有数の温泉地です。歴史的な建物と自然環境が調和し、「外湯めぐり」などの豊かな温泉文化を体験できることで人気があります。
温泉街
城崎温泉では「街全体がひとつの⼤きな宿」という考え方が根付いています。まず「駅は⽞関」で、その先の「道は廊下」、「宿は客室」、「外湯は⼤浴場」、「お⼟産屋が売店」、「飲⾷店が⾷堂」という考え方です。自分のお店や旅館に来られたお客様だけでなく、すべてのお客様を街全体で大切にお迎えしよう、という想いが込められています。
駅前の道には、土産物店や飲食店、物販店、カニを販売する店舗などが立ち並び、賑やかな温泉街のイメージで活気に満ちています。
城崎温泉駅から5分も歩くと、大谿川(おおたにがわ)と石造りの太鼓橋が見えてきます。柳並木が美しい大谿川の風情と情緒は、城崎温泉を何度も訪れた小説の神様「志賀直哉」からも愛されました。
大谿川の両岸には、趣のある歴史建築が立ち並びます。
温泉、外湯
城崎温泉には七つの外湯(一つは休業中)がありますが、両端に位置する「地蔵湯」から「鴻の湯」までは歩いて15分程度ですので、歩いて外湯をはしごできる距離です。城崎温泉では浴衣に下駄履きが正装と言われていますが、下駄履きでも苦にならない距離に街が集約しています。外湯文化を大事にするために各旅館の内湯は小規模なものに制限されていて、外湯めぐりが推奨されています。
それぞれの外湯は、それぞれの起源や歴史、施設外観などが異なりますが、1972年からは源泉は集中配湯施設に集めてから各施設に給湯する方式になりました。混合した源泉を温度57度に安定させ、町内に張り巡らされた配管で「外湯」と「旅館」に供給しています。このため城崎温泉の泉質はすべて同じで、ナトリウム・カルシウム・塩化物泉、低張性、中性(ph6.98)、高温泉で源泉温度は37 ~ 83℃です。
外湯巡り券
現在営業している六つの外湯に入湯できる一日券は1,500円です。個別に払うと1ヵ所800円ですので2ヵ所入ると元が取れる計算になります。旅館に宿泊する方は、チェックインする日の14:00からチェックアウトする日の13:00まで利用できる入浴券を旅館から貰えます。
地蔵の湯
江戸時代、多数の村民が入浴していたことから「里人の外湯」と呼ばれていました。この湯の泉源から地蔵尊が出たので「地蔵湯」という名前がついたとされ、庭内には地蔵尊を祀られています。外観は和風灯篭と、玄武洞をイメージした大きな六角形の窓で、外湯のなかで一番モダンな建物となっています。
一の湯
「一の湯」ができた江戸中期は「新湯(あらゆ)」という名前でした。江戸時代の名医「香川修徳」が著書「薬選」の中で「但州城崎新湯を最上至極天下第一湯とする」と記述したことで有名となり、「一の湯」に改名されました。桃山方式の歌舞伎座を思わせる外観で、街のほぼ真ん中に位置する「一の湯」は、城崎温泉を象徴する名所として多くの人で賑わっています。
大正時代の「一の湯」外観です。千鳥破風と唐破風のデザインが現在の建物に踏襲されています。
「一の湯」前の大谿川に架かる「王橋」の脇にある飲泉場です。唐門風の屋根が目の前の「一の湯」の屋根のデザインと呼応しています。訪れた際には、何人かの方が温泉水を汲みに来ていました。
鴻の鴻
城崎温泉は1300年前に道智上人が開湯しましたが、「鴻の湯」には城崎温泉のもうひとつの開湯伝説が残っています。昔々、足を怪我したコウノトリが傷を癒やしていた場所をよく見ると、温泉が湧き出していたことから発見されたと言われています。山奥の湯の雰囲気を醸し出す素朴な建物で、街のはずれに静かにたたずんでいます。
昭和35年鴻の湯外観です。現在の建物とほぼ同じ、切り妻のシンプルなデザインです。
御所の湯
南北朝時代の歴史書「増鏡」に、1267年に後堀河天皇の御姉安嘉門院が入湯された記述があることから、「御所の湯」と名付けらています。京都御所を彷彿とさせる現在の建物は、2005年(平成17年)に「四所神社」隣に新築移転されました。
3段からなる広々とした岩風呂の周りに豊かな植栽を施し、裏山を借景とした野趣と開放感に溢れる露天風呂です。借景の裏山からは川が流れ、まるで湯舟の中に注ぎこんでいるような錯覚に陥ります。露天右手には四所神社の大きな銀杏の大木があり、きれいな黄色に色づいていました。
「御所の湯」の右隣りにある「四所神社」です。708年に創設され、その後717年に道智上人により城崎温泉が発見されたとされています。
飲食店
日本海に近いことから新鮮な魚介類が揃う「海の幸の宝庫」で、中でも「カニ」は有名です。高級和牛の神戸牛・松坂牛・近江牛の素牛である「但馬牛」や、きれいな水と空気が育む「山の幸の宝庫」でもあります。食事だけのために城崎温泉を何度も訪れる食通も多いとのことです。
居酒屋(とみや)
旅館でカニのコースを満喫するのもいいですが、少量を楽しむならば地元の居酒屋を訪ねるのもいいかもしれません。満席のリスクを避けて、予約してからの訪問です。
ご主人おひとりとアルバイトの女性1名でテキパキと対応されています。
城崎といえばまずはカニ!
「ズワイガニ」は、山陰では「松葉ガニ」、北陸では「越前ガニ」と呼ばれています。松葉ガニのメスのことを「セコガニ」と言い、地域によっては「香箱蟹」などとも呼ばれます。また、「ズワイガニ」と「紅ズワイガニ」の味に大きな違いはなく、どちらも甘みが強くとても美味しいカニです。違いがあるのは食感と身に含まれる水分量が多少違います。紅ズワイガニは、水深が深いところに生息し加熱すると赤やかな紅色になります。また、漁獲量が多いため安価です。
「セコガニの甲羅盛り」です。甘くてジューシーな身と卵でお酒が進みます。
「紅ズワイガニの身とカニみそ」です。新鮮ですので水っぽさは気になりません。カニみそは濃厚で日本酒によく合います。
その他の料理
そのほか口直しで「菊菜のゴマ和え」と、ボリューミーな「厚揚げのマーボー豆腐風」を頂きました。
スナック(ちょっと恋)
城崎温泉には、飲食店や居酒屋のほかスナックも何軒かあります。食事をする居酒屋候補に考えていたお店と一緒に、仲良く並んで看板が出ていたスナックにお邪魔しました。あとでお聞きすると居酒屋とスナックは、何の関係もないそうです。入店したときは先客がひとりでしたが、その後も一人客やご夫婦、二人連れなどで大盛況です。皆で順番にカラオケをやったりして楽しく過ごしました。
宿(大西屋水翔苑)
「大西屋水翔苑」は、駅からちょっと離れた車で5分程度のところにあります。以前は街中にありましたが周辺道路が狭いなどの理由で現在の場所に移転新築したそうです。そのため施設はきれいで、廊下までも畳敷きという新和風な館内です。せせらぎが流れる大きな中庭にはかがり火・能舞台の幻想的な演出があり、非日常的で優雅なひとときを過ごすことができます。
駅や外食、散歩、外湯めぐり、には随時送迎サービスがあり、電話をすれば所定の場所まで迎えにも来てくれます。サービス精神は旺盛で、無料の喫茶や休憩所、マッサージチェアなど至れり尽くせりです。スタッフの応対も気持ちよく、細やかな配慮が行き届いています。街の中心から少し離れていますが、それを差し引いても「また訪れたくなるお宿」です。
まとめ
「外湯めぐり」発祥の地とも言われ、現在でも「浴衣」に着替えて「下駄履き」でカランコロンとそぞろ歩きが似合う城崎温泉は、温泉文化をしっかりと地域に根付かせた稀有な街のひとつだと感じます。江戸時代の温泉番付では西の関脇に列せられ、全国にその名を轟かせています。一方、地域の4つの泉源のお湯は集中配湯システムで混合され、地下配管でループ状にすべての外湯・旅館に供給されています。泉質がすべて同一で、しかも中性・無色透明・無臭・弱塩味という無個性なこともあり、泉質の違いの楽しみを「外湯めぐり」に求める「温泉通」には少々物足らないかもしれません。
温泉の楽しみ方は、「お湯」そのもの以外にも「温泉文化」を肌で感じることや、地域の料理や地元の人との交流にもあると再認識した旅でした。
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城崎温泉の歴史に詳しい記事がありますのでご紹介します。
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カニについての別記事があります。ご興味のある方はお立ち寄りください。
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草津温泉の外湯を紹介した記事があります。ご興味のある方はお立ち寄りください。
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別府、鉄輪温泉の外湯を紹介した記事があります。ご興味のある方はお立ち寄りください。