湯治と称して数日間温泉に滞在するためには、費用を抑えるために素泊まりで自炊も選択肢に入ってきます。最近は少なくなってきた「自炊の湯治文化」を守っている大沢温泉「湯治屋」にお邪魔してきました。また、滞在中に「湯治文化の広がり」を感じるものを発見しましたので、併せてご紹介します。
大沢温泉
大沢温泉は、東北新幹線の新花巻駅からバスで35分程度のアクセスの良い一軒宿です。自炊ができる湯治屋と、和風旅館の山水閣の二つのパターンで温泉を楽しむことができます。
湯治屋外観
自炊ができる湯治屋の外観です。なんと築200年以上の木造の建物だそうです。増築を重ねていますので、建物がいく棟にも広がっています。
大沢の湯
大沢温泉のウリのひとつが「大沢の湯」です。目の前を流れる豊沢川にせり出した露天風呂で、川と山、空に包まれた自然のなかに溶け込んだような温泉です。もちろん源泉かけ流しで、ph9.0のアルカリ性単純泉、低張性で51.2℃の高温泉です。
「大沢の湯」は、今も混浴ですが「男性の目を気にせず入浴したい」との女性の希望に応えて、20時から21時は女性専用の時間としています。また、「大沢の湯」の目の前には対岸に渡る「曲がり橋」が架かっているので、橋の上からは丸見えの状態です。なんとも大らかな温泉です。
周囲の風景
曲がり橋から下流方向を見た写真です。山間の川辺にたたずむ湯治屋の棟々を見ます。
自炊の様子
今回は、湯治の醍醐味ともいえる自炊での滞在です。調理器具が揃っていることや、部屋に冷蔵庫があること、売店でちょっとした食材や氷を買うことができることも、事前に確認済みです。持参品は、肉と野菜、乾麺と調味料など最小限としました。
キッチンの設備
炊事場は大きく、ガスコンロもいくつも並んでいますが、なんと有料コイン制です。10円で8分間使えます。なんとも歴史を感じるガス自動販売機(?)ですが、ちゃんと問題なく機能してくれました。また、使ってみると8分はちょうどいい時間なんですね、毎回10円で済みました。
客室の冊子に共同炊事場の簡単な使用方法が記載されていました。ガスコンロや洗い場、食器の数なども多く、それなりの人数の方が同時に炊事できるキャパシティです。包丁だけは帳場での貸し出しとなっていますので、必要な方はミニナイフでもご持参されたほうが、手間が掛からないかもしれません。
肉野菜炒め
豚コマとカット野菜のパックを持参していましたので、肉野菜炒めを作りました。塩、コショウと麺つゆで味付けしますが、調味料は持参しています。包丁いらずで簡単です。
そうめん
麺つゆを持参していますので、そうめんも併せて買ってきています。大小さまざまな鍋がありますし、ザルもありますので、そうめんも簡単です。薬味を持ってくるのを忘れましたので、売店でワサビを買って、美味しくいただきました。
卵かけご飯
「調理するほどでもないな」と思うときは、「ごはんとお味噌汁の炊き出し」というのが用意されています。売店には、豆腐や納豆、生卵、漬物なども売っていますので、それらで簡単に済ませることもできます。
但し、「ごはんとお味噌汁の炊き出し」も前日予約が必要だそうで、当日に食べたくなった私は、やむを得ず売店で購入した「パックごはん」を電子レンジで温めて頂きました。納豆はタレ付きですが、生卵には麺つゆで味付けすると美味しかったです。
売店
売店では、お土産品やお菓子などと併せて、自炊用の食材や調味料、アルコールや水、炭酸水など多種多様な品揃えです。季節柄、氷や炭酸水などは助かりました。お土産として自分用に、南部鉄器の風鈴を購入しました。これから毎夏、いい思い出になると思います。
冷蔵庫
自炊ができる湯治宿の場合、冷蔵庫が共同の場合と、個室に用意されている場合があります。ここ湯治屋は、施設が大きくて部屋数が多いということもあるのでしょう、個室に個別に用意されていました。冷蔵庫は、食材や氷、飲み物の保存には欠かせません。
湯治文化が香る「エッセイ」
館内の掲示板に素敵なエッセイが掲示されていました。
冬の大沢温泉で湯治客の老人と知り合ったこと。老人は質素な朝食を自炊していたこと。老人と将棋を楽しみ、漢詩の教えを受けたこと。十日後、老人は迎えのロールスロイスで帰っていったこと。が書かれています。老人は「漢詩とは芸術であり、自由とは何かを考えること。」と言っていたそうです。
「湯治屋」のスケッチ
湯治屋の玄関を入ると帳場があって、その脇が共用の休憩所となっています。その一角に「湯治屋」の玄関を描いた小さなスケッチが飾ってありました。柔らかなタッチでかなり正確にスケッチし彩色されていますので、かなり上手な方が描かれたのでしょう。表にはサインがなく、裏にひっそりと小さくサインがしてありました。
アクセス
新幹線の新花巻駅からは送迎バスがあるのですが、夕刻の時間に限られているため、JR東北本線の花巻駅から路線バスで向かうこととしました。新花巻駅と花巻駅は少し離れていて、車で10分程度の距離です。電車はありますが本数が少なく、使い勝手はよくありません。
北上駅から花巻駅へ
仙台方面から北上駅まで新幹線を使い、そこから東北本線各駅停車で2駅10分です。いかにもローカル線といった風情です。花巻駅のホームには名所案内の掲示板が、近郊各所の名所を案内していました。大沢温泉までは、バスで25分とあります。
駅舎はモダンです。大沢温泉方面には、大きなバスロータリーの3番乗り場から路線バスが出発します。
花巻駅から大沢温泉へ
路線バスですので地元の方々も多いですが、山に近づくにつれ人が少なくなり、景色ものどかになっていきます。広がる田圃と大きな空が心地いいです。
大沢温泉のバス停で降りると、通りに大きな案内看板が立っていました。ここから豊沢川に向かって少し下るとすぐに大沢温泉です。まずは近代和風旅館の山水閣が現れ、その先に湯治屋があり、川の対岸にはギャラリーになっている菊水館が建っています。
大沢温泉から新花巻駅へ
帰りは、チェックアウトしたあとに出発する送迎バスで新花巻駅まで送ってもらいました。花巻駅を過ぎて新花巻駅に向かう途中で北上川を横切ります。岩手県中央部を北から南に流れ、宮城県石巻湾に注ぐ、日本で4番目に大きな川です。大きくゆったり、堂々と流れています。
新幹線停車駅の新花巻駅です。地方の新幹線駅のデザインは、どこも似たような感じになってしまいますね。駅前にはほとんど何もありません。
送っていただいた大沢温泉の送迎バスです。和風旅館の山水閣の前から発着しますし、旅館の山水閣のお客様のご利用を想定しているのでしょう、大きくてきれいなバスです。
大谷翔平と花巻東高校
花巻といえば、大谷翔平や菊池雄星を輩出した花巻東高校が有名ですよね、甲子園に何度も出場して準優勝をしたこともあります。新花巻駅の待合室の一角には、花巻東高校出身者の業績や写真、記念グッズの展示コーナーが設けられていました。
花巻東「愛」に溢れています。この年も甲子園出場を決めていましたので、街中あちこちに「祝、甲子園出場」のポスターが貼られていました。
まとめ
自然に包まれた露天風呂での湯治は、簡単な自炊生活をすることで、さらに魅力が増すようにさえ思います。
いまだに混浴だったり、橋の上から丸見えだったりするのも、昔ながらのやり方を頑なに守っているようで、おおらかで微笑ましく感じます。
館内で見つけたエッセイは、自由を考える十日を湯治で過ごす老人と、心を通わせる素敵なものでした。
湯治屋のスケッチは、湯治で滞在している間に、こんなに素敵な作品が描けたなら、さぞ楽しかろうと羨ましくなるものでした。滞在期間中の過ごし方を、ゆっくり考えてみようと思います。
大沢温泉の湯治屋に滞在した別記事があります。ご興味のある方はお立ち寄りください。
湯治のために自炊と素泊まりを紹介した記事です。大沢温泉も出てきます。
草津温泉で素泊まり、自炊をした記事です。
別府鉄輪温泉で素泊まり自炊、地獄蒸しをした記事です。
大沢温泉を題材にしたエッセイがあります。ご興味のある方はお立ち寄りください。