前川國男はモダニズムの旗手といわれ、戦後の日本建築界をリードしてきた存在です。近代建築の巨匠ル・コルビジェやアントニン・レーモンドの元で学び、前川事務所からは丹下健三をはじめとする多くの建築家が育っていきました。そんな前川國男とその作品について、ご紹介したいと思います。
前川國男の略歴と主な作品
1928年 | 昭和3年 | 渡仏 ル・コルビジェ事務所(23歳) |
1930年 | 昭和5年 | 帰国 東京 レーモンド事務所 |
1935年 | 昭和10年 | 銀座に事務所開設(30歳) |
1942年 | 昭和17年 | 品川区上大崎に自邸建設(37歳) |
1945年 | 昭和20年 | 戦禍により銀座の事務所を自邸に移転 |
1954年 | 昭和29年 | 神奈川県立音楽堂、神奈川県立図書館建設 |
1955年 | 昭和30年 | 国際文化会館建設(50歳) |
1961年 | 昭和36年 | 東京文化会館建設(56歳) |
1964年 | 昭和39年 | 新宿紀伊国屋ビルディング建設 |
1976年 | 昭和51年 | 国際文化会館旧館改修並びに新館新築(71歳) |
1986年 | 昭和61年 | 逝去(81歳) |
東京大学卒業後、23歳の時に単身シベリア鉄道でフランスに渡りました。昭和3年というまだ外国が遠かった時代ですので、すごいバイタリティを感じます。フランスでは設計を学ぶとともにオペラなどの芸術や文化に親しみ、健啖家として多くの料理を食べ、憧れの白いジャガーでドライブし、ついにはそのジャガーを日本に持ち帰ったという逸話が残っています。
前川國男の自邸
外観
切妻の大屋根が特徴的なデザインです。竪板張りの木材と障子窓、ガラス格子窓といった要素により和風の印象が色濃く出ています。建築面積は94㎡ほどですが堂々とした印象が感じられます。
内観
中央部の吹き抜けの居間を中心に、それを挟むように書斎と寝室を配置するという簡明な構成です。書斎側にはトイレと女中部屋を、寝室側には浴室と台所を置くミニマムな構成となっています。居間にはロフトがあって、木製の階段によって居間と接続されダイナミックな空間が形成されています。
平面図
立面図、断面図
居間(サロン)
居間から南側外を眺めた様子です。吹き抜けの高い空間の中で上部のガラス格子窓と下部の障子、透明なガラス窓のコントラストが、なんともリズミカルで美しい造形です。
居間のロフトの下部分にダイニングテーブルが置かれています。写真右手にある台所からの動線が最適な位置関係となっています。
トイレ
黒のモザイクタイルで床・壁が端正にまとめられています。戦前の1942年(昭和17年)のデザインとは思えない洗練さです。
国際文化会館
国際文化会館は、国際相互理解のための文化交流及び知的協力の促進を目的とする公益財団法人が運営する施設です。東京港区鳥居坂の岩崎小弥太邸跡地に1955年(昭和30年)前川國男と坂倉準三、吉村順三の共同設計で建設されました。宿泊施設のほか会議施設、レストラン、図書室などにより構成され、講演会やセミナー、結婚式場として利用されています。
エントランス、外観
鳥居坂からは建物を見ることはできず、アプローチを経て建物が出現します。日本のモダニズム建築を代表する名建築とされ、今でも創建当時の状態で保存されています。
施設模型
ロビーには建物の模型が展示されていました。
ロビーラウンジ
ロビーラウンジは天井が低くこじんまりとした印象です。ただ、正面に広がる庭園が目に飛び込んできますし、ラウンジ奥の部分は天井がガラスになっているため、開放的な雰囲気です。
レストランからの眺望
国際文化会館にはレストランが2ヶ所あって、ひとつはロビーフロアのレベルにある「ザ・ガーデン」で、もう一つはロビーから階段を降りたところにある「レストランSAKURA」。前川國男も「レストランSAKURA」にはよく来たといわれています。また、三島由紀夫が川端康成を媒酌人にして結婚披露宴を行ったことでも有名です。
下の写真はティーラウンジ「ザ・ガーデン」の窓際席からの眺望です。運営はオークラグループが受託しています。
その他の施設
1954年(昭和29年)に建設した神奈川県立音楽堂は、ロンドンのロイヤルフェスティバルホールをモデルに造られ、当時は東洋一の響きと絶賛されました。隣接する神奈川県立図書館も同時に開館しています。
1961年(昭和36年)上野公園に建設した東京文化会館はコンクリート打ち放しの大きな軒が特徴的です。向かいには師のル・コルビジェが設計した国立西洋美術館があります。
1964年(昭和39年)には新宿の紀伊国屋ビルディングを建設しています。レンガで意匠された壁とコンクリート打ち放しの湾曲した各階の庇が特徴的なビルです。身近なところでも前川作品に触れることができるんですね。
まとめ
前川國男の自邸は江戸東京たてもの園に移築されていますので、外観はもとより内部の隅々まで見学することができます。国際文化会館の場合、宿泊は会員と紹介者に限定されますが、ふたつのレストランは一般の方でも利用可能です。東京文化会館、神奈川県立音楽堂は今も現役で利用されていますし、神奈川県立音楽堂では建築見学ツアーも開催されているようです。まだまだいろいろなところで前川國男に触れることができますので、皆さん是非お好みの施設に足を運んでみてはいかがでしょう。
江戸東京たてもの園に関連する別記事があります。ご興味のある方はお立ち寄りください。