歴代伊達藩主「御用達」の温泉宿「不忘閣」は、仙台近郊の白石蔵王駅からバス40分の「遠刈田温泉」から、さらに車で10分進んだ「青根温泉」にあります。21代続くその宿は、伊達藩主から「湯別当」の高禄をもらい、代々「湯守り」の役と「関守り」を兼ねていました。蔵には伊達家ゆかりの遺品が数多く収蔵されており、「青根御殿」で見る文化財は虫干しを兼ねた収蔵品の一部分です。
青根温泉・不忘閣
明治の頃は、青根温泉はとても栄えて多くの温泉宿が軒を連ねていたようです。伊達家ゆかりの温泉宿のほか、皇族をお迎えする宿などもあったようです。当時の絵図が青根温泉の当時の隆盛を伝えます。

現在の「不忘閣」は地味な印象の玄関ですが、中に入ると広々と整然とした印象のエントランスロビーです。


館内図を使って6つある湯屋の説明や、湯上り休憩処、食事場所、翌朝の「青根御殿」見学ツアーなどについての丁寧な説明を受けます。

ロビーには有名人の似顔絵付きサイン色紙が飾られています。著名人になると「似顔絵スケッチ」も上手にならないといけないんだなと、妙なところに感心しました。


休憩処「喫茶去」は本館1階にあり、庭に面して落ち着くところです。ドリンクや茶菓の無料サービスもあり、宿の行き届いた心遣いを感じます。

休憩処では、なんと「地酒の無料サービス」まであります。勝手に自分で注ぐ方式ですし、軽いおつまみもありますので、ついつい長居してしまいます。


庭の先には伊達家の湯治場「青根御殿」を望みます。雨に霞む御殿は、美しいシルエットが強調されます。

6つの湯屋
「新湯」と「蔵湯」は木札で貸し切り
玄関ロビーに「新湯」と「蔵湯」の木札が置いてあります。この木札を持ってそれぞれの湯屋の前に行き、そこに木札を置いて入浴中を知らせます。ロビーに木札がなければ使用中だとわかりますので、便利で面白いシステムです。

新湯
「新湯」はその名の通り新しく別棟で建てられた湯屋です。木造の高い天井と白壁、正方形に貼られた石の床面と、床レベルまで満ちている温泉は特別感がありますし、貸切利用ですので静かでゆったりとした時間が流れます。


蔵湯
蔵が立ち並ぶ石畳の小道を進むと、蔵の内部を湯屋に改造した「蔵湯」に辿り着きます。内部は重厚な木造構造が現しになっていて、その中にヒノキ風呂が鎮座しています。


大湯
「大湯」は、1528年に佐藤掃部がこの地で温泉を発見したのち、地元石工が2年の歳月をかけて蔵王山中の転石を用いてセメントを使わず組上げたもので、480年の歴史を誇ります。造られて以来「不忘閣の内湯」、また地元に開放されて「共同浴場」として長きにわたって親しまれてきました。2006年に建物老朽化のため一度は閉鎖されましたが、佐藤掃部の子孫で二十一代湯守の佐藤仁右衛門氏が2008年に湯屋建屋を再建し、宿泊客専用の内湯として復活させました。建屋は青森ヒバを用いて釘を使わず組み立て、男湯と女湯を分けていた仕切りは取り払い、男女交代での入浴としました。シャワーや蛇口は取り付けず、開湯当時の状況を再現しています。

御殿の湯
伊達政宗公が青根御殿に湯治に来た際に使う殿様専用の湯舟を「御殿の湯」と称していました。その後数百年にわたり湯屋・湯舟はたびたび改築され「当時の面影は窓外の石垣のみ」と、湯守主人の添え書きがありました。

御殿の湯には「大」と「小」の二つがあり、時間により男女入れ替えです。「御殿の湯」のみに、シャワーとカランが設備されていて、ボディーソープ・シャンプー・リンスが備え付けられています。

亥之輔の湯
亥之輔の湯は、屋外の雰囲気が楽しめる半露天風呂です。小ぶりの湯舟ですが、貸し切り利用なので湯舟を独占できます。

部屋と食事
広い敷地に本館・青根御殿・西別館・不忘庵・湯屋などが立ち並びます。中でも不忘庵は背後の山肌に沿うように建てられているので、長い階段を経て辿り着くことになります。

客室は古いものの清潔感があり気持ちの良い部屋でした。階段をかなり上ってきましたので、山深い山荘に来たような趣です。


食事は本館2階の食事処でとります。一人旅でも個室が用意され、目の前の障子を開ければ森の緑が眼前に飛び込んできます。

食事をしている間に、蒲団敷きを済ませてくれていました。一人旅も積極的に受け入れているようですが、通された部屋は広くて立派な部屋で贅沢です。

「青根御殿」見学
翌朝には時間指定で「青根御殿・見学ツアー」が催されます。案内の仲居さんが御殿を最上階まで案内してくれて概ね10分です。その後最上階で解散し、各々自分のペースで戻ります。

遠刈田温泉
帰りは宿の車で「遠刈田温泉」のバス停まで送ってくれました。バス停の近くに共同浴場「神の湯」がありましたので、立ち寄ります。不忘閣の温泉は透明度が高い温泉でしたが、遠刈田温泉のお湯は薄褐色の弱アルカリ温泉です。あつ湯とぬる湯の二つの浴槽があるのですが、あつ湯は熱すぎて誰も浸かっていません。


まとめ
伊達政宗ゆかりの宿で、文化財の青根御殿、趣向に富んだ湯屋、大きな部屋と個室の食事処、休憩処と地酒無料、などのサービスが行き届いている割にはリーズナブルな料金です。帰りに車で送ってくれた仲居さんの話によると、不忘閣の主人は代々「仁右衛門」を名乗ることになっているそうで、本人は病院などで名前を呼ばれるのが恥ずかしい、とこぼしているそうです。とは言え、大湯を復活させ、秘湯の会を主宰する温泉大好きなご主人のおもてなしに、心温まる滞在となりました。