温泉・群馬|草津温泉・白旗の湯~熱すぎて入れない~不思議と満足

草津温泉 白旗の湯 温泉と街並み
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白旗の湯

「白旗の湯」は、草津温泉の象徴ともいうべき湯畑のすぐそばにありながら、少し異なる時間の流れの中にあります。隣の観光施設「熱乃湯」では朝から観光客の行列ができていて「湯もみショー」が人気を博していますが、共同浴場「白旗の湯」は、ひっそりと佇んでいます。草津に19ヵ所ある共同浴場のうち、観光客が入浴できるのはここ「白旗の湯」と「地蔵の湯」「千代の湯」の3ヵ所のみで、料金はいずれも無料です。「白旗の湯」は白旗源泉で、草津温泉で唯一少し白濁する源泉が、かけ流しで満たされています。源泉温度は50℃を超え、ph2.1の強酸性の強い殺菌力と古くから言い伝えられる神経痛や皮膚病、疲労回復に効能がある湯を目当てに、地元の方やリピーターたちが静かに暖簾をくぐっていきます。

中に入ると、脱衣所も浴室も簡素そのものです。誰かのために作り込んだ演出はなく、あるのは湯と最低限の設備だけ。その素っ気なさが、逆に温泉好きの心をくすぐります。観光地の華やかさに少し疲れたころに、ふっと身を預けたくなる場所です。浴槽はふたつあり、ひとつは「あつ湯」で、もうひとつは「ぬる湯」と称されていますが、「ぬる湯」と言っても「草津一熱い」と言われるほどの熱さです。足で湯もみをしてから、湯を乱さず静かに浸かり、手のひらは湯面から出して空気で冷やしつつ入浴するのが「熱い湯に入る基本」です。

熱すぎて入れない

ところが、この日は様子が違います。かけ湯をしながら手先で湯加減を確かめると、触った瞬間に笑いが漏れるほどの鋭い熱さが指先を刺します。覚悟を決めて掛け湯を何度か繰り返します。足、肩、胸、背中へと、手桶で湯をかけることは何とかできます。しかし、いざ湯舟に身を沈めようとした瞬間、足先から伝わる熱さに、足がすぐさま引っ込みます。「これは無理だな」と内心では早々に白旗を上げます。足で湯もみをするように動かす余裕などほとんどありません。湯の表面に触れただけで「長居は危険」と本能が訴えかけてきます。この日に限って「あつ湯」も「ぬる湯」も温度の差はなく、どちらもキンキンに熱い、という表現がぴったりの状態です。

おそらく、清掃後にお湯を張り直した際に、源泉の供給量をやや多めに設定したのでしょう。源泉かけ流しの魅力は、そのまま自然の恵みを楽しめる点にありますが、温度管理という点では外気温やお湯の供給量のせめぎ合い、微妙な調整が必要となります。この日の白旗の湯は、源泉供給量の調整があまりうまくいってなかったようです。掃除をする人が寝坊して、時短のために「源泉をドバドバ入れたのではないか」と邪推するほどの熱さでした。

結局、この日は湯舟に浸かることは潔くあきらめました。その代わりに、湯舟から手桶で湯を汲み、体や頭からあつ湯をたっぷりとかぶることにします。かける瞬間は、やはり「熱い」と声が出ますが、かけ湯であれば自分のペースで熱さと付き合えます。湯をかぶるたびに、皮膚の表面がきゅっと引き締まり、じわじわと芯の方から温まりが広がってきます。湯に浸かるだけが温泉ではなく、かけ湯でも十分に「草津の湯の力」を感じられるのだと、新たな発見をしました。

常連さんとの会話

床に腰を下ろして「かけ湯」をしていると、いつの間にか常連さんとの会話が始まっていました。温泉で見知らぬ者同士の距離が妙に近いのは、タオル一枚の身軽さが余計な肩書きや立場を溶かしてしまうからでしょう。

ひとりの男性は、北陸方面から車で七時間かけて毎月のように「白旗の湯」に来ているとのことでした。難病の骨化症を患っており、体の動きに制限があります。それでもここに来る理由を尋ねると、「この湯に入ると三週間くらいは調子がいいんです」と静かに教えてくれました。長距離移動の負担や費用のことを考え、車中泊で数日過ごすのがいつものパターンだそうです。草津への移住も考えたことがあるそうですが、地元では果樹園を営んでおり畑を長く空けるわけにはいかない。土地と仕事を手放すことなく、しかし身体のために湯を求める。その折り合いとしての「毎月・七時間の道のり」なのでしょう。気がつけば、もう十五年通い続けているといいます。医者も驚くような数値の改善が出ているそうですが、何が効いているのかは正確にはわからない。湯の成分なのか、草津ならではの温度なのか、それともここで過ごす時間が自律神経を整えているのか――本人にとっては、その理由よりも「調子がいい」という事実の方がずっと大きいのでしょう。

もうひとりの常連さんは、高崎から来ていました。こちらは年に数回のペースですが、それでも草津を訪れるたびに、必ず白旗の湯に立ち寄るのが習慣になっているそうです。腰にはボルトが入っており、常にコンディション管理が欠かせない生活だといいます。その日も、近くの旅館の浴衣姿で、ふらりと暖簾をくぐってきました。「ホテルの大浴場も悪くないけれど、ここに来ないと草津に来た気がしないんですよ」と笑っていました。

まとめ

次に「白旗の湯」を訪れるときには、もう少し湯温が落ち着いていて湯舟にそっと身を沈められるかもしれない。あるいは、また今回のようにかけ湯だけで終わるかもしれない。それでも構わないと思えるのが、「白旗の湯」の不思議なところです。湯に浸かれたかどうかよりも、そこで過ごした時間と出会った人たちの会話が、旅の印象を決めていく。草津温泉が「日本三名泉」と呼ばれる理由の一端は、こうした小さな共同浴場に宿る時間の厚みにこそあるのかもしれません。